映画『喰いついたら放すな』のデータ
題名 喰いついたら放すな (Never Let Go)
監督 ジョン・ギラーミン
出演 リチャード・トッド、ピーター・セラーズ、エリザベス・セラーズ、アダム・フェイス
上映時間 90分
制作年 1960年
制作国 イギリス
映画『喰いついたら放すな』のあらすじ
化粧品の営業をしているジョニーはなかなか成績があがらないセールスマン。売り上げを伸ばすために無理して車を購入するが、わずか一週間足らずで盗まれてしまう。「車が無ければ成果をあげられない!」と思ったジョニーは、妻の反対を押し切って、執拗に車の行方を探し続ける。
危険な目にあってもなんのその。そのジョニーの一念が、車を盗んだ街のチンピラ、車泥棒の親玉の愛人、果ては親玉のメドウズまでもをじわじわと追い詰めていくことになる。
映画『喰いついたら放すな』の感想
リチャード・トッド主演の犯罪映画(?)で、印象に残る結構お気に入りの作品。
どういうところが気に入っているのかと言うと、このストーリーならば娯楽性の高い作品にすることもできるのに全然そうはならず、結構現実的な苦い作品に仕上がっているところ。
犯罪映画というよりは処世術映画というか、反面教師映画というか、私はこの映画を見ると「ダメなヤツの見本を見た!」という気分になる。
どういうところがダメなヤツなのかと言うと、まずジョニーはいたって普通の、身近にいそうなごく平凡な男として登場する。
彼は大して売り上げを上げられないセールスマンで、隣の机の同僚からかなりバカにされている。にも拘わらず、ジョニーは全く意に介さない。というか、自分がおバカなのに気が付いていない節がある。
というのも、ジョニーを馬鹿にしているその同僚は、嫌な奴かもしれないが、地に足の着いた努力家らしく、統計学とかマーケティングなどを勉強していて、セールスの成績も優秀。そんな同僚から「君も勉強してみたら?」と言われた時、「僕には必要ない」とか言って、ジョニーは全然興味を示さない。
その “必要のない理由” というのが振るっていて、「だって車を買ったんだもん!」というもの。馬鹿だなあ。
ジョニーは自分の営業が上手くいかないのは、車を持っていないからだと心底思っている。車がないから効率よく顧客を回れず、結果が出ないのだと。
だから車を買えば一発解決!! 自分の無能を棚に上げて、車を持てば、車さえあれば、車さえ、、、車、、、
だもんだから、その希望の車が盗まれちゃって計画が狂い、それで執拗に車にこだわって、パラノイアみたいなしつこさで車を盗んだ黒幕を追っていく。
いやジョニーさん、私が見たところ、あんたのうだつが上がらないのは、車の有無はぜんぜん関係ありませんぜ。
あなたはまるで車が無いからセールスが上手くいかないように思い込んでいるけどそうじゃなくて、根本的な仕事のやり方や考え方が全くなっていないから、仕事が上手くいかないんですぜ。
たとえ車を盗まれたとしても、顧客とのアポイントに遅刻しちゃあいけません。ついこの前まで車はなかったんだから、車がなくてもちゃんと行けるでしょ。車がないならないなりに、間に合うように行かなきゃいけません。
約束に一時間も遅刻して現れて、「あなた時間に来なかったでしょ」と秘書的な中年女性に冷たく断られてブチ切れていたけれど、キレていい立場じゃありません。断られて当たり前なのですよ。それが責任ある社会人というものです。
盗まれた車を自分で探すのもいいけれど、仕事に差し支えないように捜査をしなくちゃいけません。
車の保険もケチらず入っておきましょう。それから、賢そうに見せようとして伊達メガネなんかかけても賢くはなれません。
結果が出せず、「迅速にやれ!」って社長に怒られていたけれど、社長が言っている「迅速」の意味は、移動速度のことではありません。
※ ちなみにこの時のジョニーの「社長の言っている意味が1mmも分かっていない」という顔と、社長の「ダメだなこいつ」みたいな表情が最高に見もの。
・・・そんなダメなジョニーだけど、ずっと見ていると応援したくもなる。
もしかするとジョニーは、実は自分がダメだって分かっていて、自分のダメさ加減に自分で嫌気がさして、そんな自分を変えるきっかけとして、今回の車盗難事件にこだわっている感じもする。
「これに拘らないとオレはダメなんだ! もう俺にはこれしかないんだ!」みたいな。すがりつく感じ。落ちていく人間の典型。転落へのスパイラルが始まっている。
まったくしょうがないなあ。
、、、って思いつつ、どういうわけか私は 「行け!ジョニー! 男なんだから、たとえ命をなくすかもしれなくても、家族を不幸にするかもしれなくても、男が一度始めたんだから最後までやり通せ!」 って思ったね。
ラストシーンを見る限りでは、たぶんジョニーはあんまり変わらなさそう。車はとり返せたけど、スカッと「よかったね!」みたいな終わり方じゃあない。
マイケル・ジャクソン似の奥さんの、傷だらけになって帰ってきた旦那を見る目は悲しそう。「ダメな人ね・・・しょうがない、見捨てずに見守っていくか・・・(ため息)」 そして抱きしめる、みたいに見える。
ジョニーにしては出来すぎの、いい奥さんなんだよね。
奥さんはジョニーの器を見抜いていて、ダメな旦那だけど愛してるから、これ以上危険なことをしてほしくなくて、
「あなたがこれ以上車にこだわるんなら、家族に危険が及ぶ前に家を出ていくわ」
と、最後通牒のようなことまで告げるけど、ジョニーはそれを振り切って命がけで車をとり返しに行く。
この時奥さんはジョニーの目を覚まさせようと 「あなたは、あなたがかけている伊達メガネみたいな男なのよ」 とまで言っていた。
テ、テキビシイ。でもそうなのよ。まさしく。奥さんからすれば、そこまで言わさないで、って感じだと思う。
最後に覚書として、ジョニーの車を盗むチンピラ青年トミー役のアダム・フェイスが、いかにも60年代70年代の不良少年っていう感じで懐かしくも可愛かった。
彼は当時アイドル的人気のあったミュージシャンで、代表曲「What Do You Want?」は全英1位になった。YouTubeで見つけたのでリンクを貼っておく。