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灰色の男(1943)

 

 

 

 

 

映画『灰色の男(1943)』のデータ

題名 灰色の男 (The Man in Grey)
監督 レスリー・アーリス
出演 マーガレット・ロックウッド、ジェームズ・メイソン、フィリス・カルバート、スチュワート ・グレンジャー
上映時間 116分
制作年 1943年
制作国 イギリス

 

 

映画『灰色の男(1943)』のあらすじ

美しいが利己的で、真っ直ぐ人を信じる事のできないヘスターと、美しくて天使の心を持つ、世間知らずでお人よしのクラリッサ。全く正反対の2人の女性の物語。

女学生時代に知り合った2人。級友たちに慕われ、金銭的にも恵まれたクラリッサを妬むヘスターに対し、クラリッサはヘスターと友情を深めたがる。学校を訪れたジプシー占いに「女性を信じないように。特にヘスターとは縁を切れ」と言われるが全く意に介さない。

やがてヘスターは男と駆け落ちして学校を去り、クラリッサは貴族のローハン伯爵と結婚する。しかしこれは愛のない不幸な結婚で、息子も奪われ別居婚を送ることになる。

そんなある日クラリッサは、ドサ回りの舞台に立つヘスターと再会。孤独なクラリッサは早速ヘスターを息子の家庭教師として迎えたがるが、ローハンに反対される。しかしクラリッサのコンパニオンとして雇われ、一緒に暮らし始める。

ローハンに愛されないクラリッサは流れ者のロクビーと恋に落ち、ヘスターはローハンに愛され愛人関係に至る。

やがてクラリッサとロクビーの関係がローハンにバレて確執に発展。ロクビーは故郷ジャマイカへ戻り、生活を立て直してからクラリッサを呼ぼうと考え一足先にジャマイカへ向かう。それを見送ったクラリッサは病に倒れてしまう。

ローハン夫人に収まるチャンスとばかりに、ヘスターはクラリッサを看病すると偽ってクラリッサを凍死させる。そして世間体を重んじるローハンの怒りを買いムチで打たれる。

時を経て20世紀のロンドンで、クラリッサとロクビーの子孫が運命に導かれ結ばれる。

 

 

映画『灰色の男(1943)』の予告編

www.youtube.com

 

 

映画『灰色の男(1943)』の感想

かなり楽しめたけど、それもそのはず、メロドラマ界では割と知られた作品らしい。物語自体確かにメロドラマで、人物像も展開もよくありがちな設定ではあった。

主人公のクラリッサが「不幸な結婚に閉じ込められた善良なヒロイン」で、不倫相手は「程よく不良な流れ者の旅役者」で、初対面での別れ際、クラリッサに思いっきりキスをするというのもベタ。

二人の ”真実の愛” の邪魔をするのが「金と地位はあるが傲慢で愛を知らない男」と「強欲で利己的な心のない美女」というのもベタ。

この作品の後も延々と繰り返される少女漫画的な設定そのものなのだけれど、かなり見られたのは、これら登場人物を演ずる役者たちの魅力のたまものだと思う。

 

まず、悪い女ヘスターを演じたマーガレット・ロックウッド。彼女はヒッチコック監督作『バルカン超特急(1938)』で主役をやっていて、当時すでに結構スターだった。そしてこの『灰色の男』がダメ押しとなり、さらなるスターに躍り出たらしい。

私は『バルカン超特急』とキャロル・リード監督の『ミュンヘンへの夜行列車(1940)』の2本しか見ていないけれど、この2本は「割と普通の感じのいいお嬢さん」という役柄だったので、今作の悪役で役の幅を広げた格好。

『バルカン~』の時はまだ若くて初々しい感じだけれど、5年も経つと ”大人の女性” になっていて奇麗だし、悪い女も良く似合っていた。

彼女が演じたヘスターという女性は悪の大器晩成型という感じ。映画の冒頭では「友達なんかいらないし、そういう存在が必要とも思わない」という、自分が人間関係にドライである自覚を持った女性として登場してくる。

だけど別にそんなに悪人でもない。なにかまだ悪の輪郭がくっきりしていないという感じで、ぼやっとしている。

その後、「退屈な教師になるなんて嫌だわ」という感じで男と駆け落ちし、場末の劇場で女優をしているということで、堅実さはないが、やっぱり別に悪人ではない。

その後ローハン伯爵邸に潜り込むのだけれど、それだってクラリッサが誘うからであって、ヘスターが計画的に入り込んだわけでもない。

ローハンに気に入られたのだって、善良ぶって近づくどころか、逆に本音をぶちまけたことで気に入られただけ。

クラリッサと共に暮らすようになってからも、上手くクラリッサをローハンとくっつけて後釜に座ろうとは考えていたようだけど、クラリッサを殺そうとまでは考えていなかったように思う。

それが一転、クラリッサが弱って病に伏せた途端、彼女を殺害してしまう。

それまで形になっていなかった悪意が、死にかけたクラリッサを見た途端、「クラリッサが死ねば自分がこの生活を手に入れられる」と急に目覚めてむくむくと形になり、犯行に及んだ、、、ように感じる。途中で自分の中の善と悪が闘っていたし。

私にはそういう風に、計画性のない突発的な行為に見えた。だから良いってわけじゃないけど、私はヘスターをそんなに憎めなかったな。

 

一方、天使のように善良なクラリッサは、若い時はもちろんの事、結婚して子供が生まれ、中年になっても初々しさを失くさない女性だった。

それは「見た目が若い」とかではなくて、精神が若い感じ。とても魅力的。ヘスターだって見た目は若くて美人なのだけど、クラリッサのような初々しさはない。

初々しいとは、言い換えればいつまでも子供っぽい、幼い感じということでもある。

愛を知らず、良い学校に通っていながら男と駆け落ちして学校を辞め、ドサ周りの女優へと転落していくヘスターに対し、

裕福かもしれないが、愛のない結婚や息子との別居など、それなりに不幸な境遇にもかかわらず、めそめそすることもなく、生き生きと生活をするクラリッサ。

善良なんだけど、、、鈍感な気もする。

 

流れ者のローハンもかなり魅力的な男性だった。それから黒人少年のトビーも可愛いくて、出てくるたびに癒される存在でよかった(演じているのは黒塗りした白人少年)。

一方、ジェームズ・メイソン演ずるローハンは典型的な傲慢男なだけで、あまり深みのある描かれ方をしていなかったように思う。ローハンは映画の題名になっている ”灰色の男” 本人なのだけれど、なぜローハンが題名になっているのかが私には分からなかった。

それともう一つ分からなかったのは、ヘスターに対するクラリッサの愛着は、一体どこから来ているのかというところ。私にはクラリッサの一方的な片思いの構図に見える。とても不思議だ。天使のように優しいクラリッサなのだから、気が合う友達なんていくらでもいただろうに。

 

 

灰色の男(字幕版)

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