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プリースト判事(1934)

 

 

 

 

 

映画『プリースト判事(1934)』のデータ

題名 プリースト判事(Judge Priest)
監督 ジョン・フォード
出演 ウィル・ロジャース、トム・ブラウン、アニタ・ブラウン、フランシス・フォード、ステピン・フェチット、バートン・チャーチル、ハティ・マクダニエル
上映時間 81分
制作年 1934年
制作国 アメリカ

 

 

映画『プリースト判事(1934)』のあらすじ

ケンタッキーの素朴な田舎判事プリーストの甥っ子ジェロームが、北部で弁護士資格を取得してケンタッキーに戻ってくる。

ジェロームはプリーストの隣に住むエリー・メイが好きで、エリー・メイもジェロームのことが好きだ。 ところがジェロームの母親は、エリー・メイが父親もわからないような孤児であることが気に入らない。由緒正しいプリースト家にはふさわしくないというのだ。プリーストは何かにつけて二人をくっつけようとするが、プライドの高い母親は聞く耳を持たない。

そんなある日、プリーストが床屋に行くと、いつもエリー・メイを口説いては撃沈しているフレムが、負け惜しみから彼女のことを「父親のいない娘なんて」と侮蔑する。思わず頭にきたプリーストだったが、なぜか先にフレムを殴りつけたのは町で最も愛想のない男ギリスだった。

 

その翌日、フレムが仕返ししようとギリスを襲い、ギリスはナイフでフレムを傷つけてしまう。

ギリスは自分の弁護をジェロームに依頼。しかも裁判の裁判官はプリーストで、ギリスにとって有利な顔ぶれだ。  

ところが裁判当日、プリーストと裁判官の椅子を争うメイデュー上院議員が、プリーストはこの裁判の裁判官としてふさわしくないと言い出す。そのためプリーストは裁判を降りる羽目になり、寡黙なギリスにとって裁判は不利な状況にすすんでいく。  

そんななか、プリーストの元へ町の牧師が訪ねてくる。「自分はギリスの過去を知っている、それをぜひ証言したい」と言うのだ。それを聞いたプリーストは、ジェロームの共同弁護人として裁判に復帰する。

そして牧師の口から知られざるギリスの過去と真実が語られる。

 

 

映画『プリースト判事(1934)』の予告編    

www.youtube.com

 

 

映画『プリースト判事(1934)』の感想 

たぶんそういうジャンルはないのだと思うけど、アメリカ映画には「いかにもアメリカ南部」といった作品がたくさんあって、「アメリカ南部もの」という一大ジャンルを築いていると言っていいと思う。

 割と重たいテーマの作品が多くて、黒人差別とか奴隷制度とか「血と汗と涙」とか、シリアス作品が多いイメージ。

たとえミュージカルのような娯楽作だとしても、そこにそういうテーマをちらっと入れたりして。

 

この作品もアメリカ南部が舞台だから、そんな先入観から勝手にシリアス作品だろうと思って見始めたら映画冒頭の裁判シーンからいきなり被告が寝ていて、ライト感覚のコメディだった。

終始軽めのタッチで描きつつ、シリアスになりそうなところもシリアスになりすぎないよう、ちょいちょいコメディリリーフを配置して、最後にいろいろなことをうやむやに強引にハッピーエンド化していくという展開。  

細かいことにこだわらず、最後に向けて急ぎ足で一気に終わらせる手法は、同じジョン・フォード&ウィル・ロジャーズの『周遊する蒸気船(1935)』と同じ構成。

 

 

主演のウィル・ロジャースは1930年代のアメリカの国民的大スター。名監督のジョン・フォードは40歳前後の頃、ウィル・ロジャース主演で『Doctor Bull(1933)』『プリースト判事(1934)』『周遊する蒸気船(1935)』の三本を、三年連続で撮影している。

この中で私は『周遊する蒸気船(1935)』を観てるけど、古き良きアメリカを体現しているような、素朴で人間味あふれる善良な人という佇まいで、いかにも「アメリカの良心」といった感じ。この感じがウィル・ロジャースなんだと思う。

 

今回の役も『周遊する~』に引き続き、人情あふれる「田舎のおじさん」という感じでよかった。実に温かい人柄がにじみ出ている。  

甥っ子のジェロームの恋路を応援していて、オクテのジェロームのために、ゲートボールの球をわざとエリー・メイの足元に打ち込んで「あの球まで何歩あるか数えてこい」と言ったり、お祭りで「キャンディー引き」のイベント(水あめを練って伸ばして長さを競う競技らしい)にかこつけて二人をくっつけようとしたり、思いやりがあってなにかと面倒見が良い。  

 

自分は妻と子供に先立たれているらしく、上手くいきそうなジェロームとエリー・メイの姿を見て自分の若い頃と亡き妻を想い、写真に向かって話しかけるところもじんわりする。

妻恋しさにそのままお墓まで行って、墓石相手に話のつづきをしたりして。  

ウィル・ロジャース好きだなあ。『Doctor Bull(1933)』がDVD化されていないのはつくづく残念。

 

 

 ウィル・ロジャース以外で気に入ったのは、プリースト判事の家で雇われている黒人家政婦ディルジー。陽気で明るくて、登場シーンでは常に歌を歌っていて、すごく歌が上手いの。  

演じたのは『風と共に去りぬ(1939)』に出演し、黒人初のオスカー受賞者(助演女優賞)を獲得したハティ・マクダニエル。この『プリースト判事』が彼女にとって初めての大きな役だったらしい。      

黒人の人、それも太った女性だと余計に「陽気で明るい」というイメージがあるけど、そのイメージ通りのドンピシャな描かれ方。

 ・・・小錦・・・に似てるんだよね・・・目が大きくてギョロっとしていて、それをさらに「ぎょろぎょろ」と強調する様なんかも小錦そっくり。かわいい。

歌もうまいし、出てくるだけでワクワクとこっちの気持ちが明るくなる感じ。  なんとなく、アメリカ南部で、しかも昔だと、そりゃあもう悲惨な黒人差別が繰り広げられていたのではないかと思うのだけれど、せめてフィクションの中だけでも楽しそうな姿を見ると救われる。

 

ほかにも『周遊する~』に出ていたフランシス・フォード、ステピン・フェチット、バートン・チャーチルの三人が、こちら側にも出ていた。気が付かないだけで他にもいたのかも。  

本来私は、俳優や制作陣が極端にファミリー化していく作風(三谷幸喜とか)が好きじゃない。ベタベタしていて気持ち悪いと思う。

でもこの二作品に関して言えば不愉快さはなかった。  

それはたぶん、ヒットさせようとか、成功しようとかいうあざとさ、邪心みたいなものが感じられないからだと思う。

ただただ映画が好きで、いつもの仲間が集まって、やってて楽しくってしょうがないみたいな、そんな無邪気さが溢れていて、とても気持ちよく見られた。

 

 

とはいえ、ちょっとだけ気になった点もある。それは『周遊~』とそっくりな、客に対してちゃんとした説明をせずに勢いだけでラストに持っていく、色々と省略したかのような終わり方。

『周遊する~』の方は蒸気船レースが最大の見せ場という「完全娯楽作」として作られているので、「わーっとなって、わーっとなって、わーわーわー」みたいな終わり方でも全然良かった。むしろそこが良かった。気楽な感じでうまく収集されていたと思う。 

でも今作『プリースト判事』の方は、コメディとはいえ親と子の自立の問題や、孤児として生まれた境遇と差別、人を刺してしまうとか戦争とか、割と重めのテーマを扱っているのに、そういういろいろ重要なことを置き去りにして全部ウヤムヤのまま、勢いだけで急速にハッピーエンドに向かっていくというのは「ちょっとドーナノ」って気にはなった。  

ギリスは南北戦争のヒーローかもしれないし、フレムはイヤな奴かもしれないけど、ギリスがフレムを刺したことは事実。

それなのに南北戦争のヒーローだってわかった途端、「わーっ、ヒーローだ!英雄だ!」で盛り上がって、フレムを刺したことはうやむやになっちゃう。

加えてジェロームと母親、恋人のエリー・メイの確執も「えー。その一言で片づけたかー」と言う感じに解消。

これでいいのか。

 

でもまあ・・・この作品も「細かいこと言わないでね」「難しく考えないでね」というスタンスで制作されているんだろうから・・・まあいっか。

 

 

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