映画『謎の要人悠々逃亡!』のデータ
題名 謎の要人悠々逃亡!(Very Important Person)
監督 ケン・アナキン
出演 ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス、スタンリー・バクスター、レスリー・フィリップス、エリック・サイクス
上映時間 94分
制作年 1961年
制作国 イギリス
映画『謎の要人悠々逃亡!』のあらすじ
戦時中、ピース卿は英国軍からなにかの任務を仰せつかって「ファーロー中尉」のコードネームを与えられ、ドイツ領へ飛び立つが、なんと爆撃機から放り出されてドイツ軍の捕虜になってしまう。そこでピース卿は収容所からの脱出を計画する。
その計画は半年ごとに行われるスイス委員会の査察の際、任務を終えて帰る委員と一緒に正面ゲートから収容所を出て行こうという、大胆なプランだった。
映画『謎の要人悠々逃亡!』の感想
捕虜収容所からの脱走もの。
でもありがちな、トンネルを掘って脱走ではないところがミソ。なんと収容所の正面玄関から堂々と脱走してしまう。
一応コメディなのだけど、爆笑に次ぐ爆笑!とかではなくて、「くすっ」「にやっ」「ふふ」くらいの軽めのコメディで、最後は「ほっこり」という展開が、脱走物としては珍しい。私はこの作品好き。
映画の構成は入れ子構造になっていて、科学者アーネスト・ピース卿の功績をたたえるTV番組が放送され、番組にはピース卿自身が登場し、懐かしい映像や再現フィルムを見ながら過去を回想する。家族や友人らと共に彼の生い立ちや人生を振り返るなかで、捕虜収容所からの脱走劇も回想される形式。
主人公のピース卿はいつも仏頂面で愛想がなくて、それなのに実はチャーミングという、背反する面を持つ人物。TV番組のゲストに親とか学生時代の同級生とかが出てきても、全然嬉しそうじゃないし笑わないし、むしろすごく迷惑そう。
もちろん捕虜収容所でも終始、厳格かつ横柄。”超”横柄と言ってもいいくらい。見ていて「何様!」みたいな。
ところが脱走に成功して帰国した彼が、まず一番に取り掛かったのが、収容所の仲間たちに雑誌とかクロスワード・パズルとか裁縫セットとかを差し入れする準備だった。みなが欲しがりそうなものをいそいそと準備するの。
加えて、TV番組収録中は親や友人との再会でさえ全然笑わなかった ”あの” ピース卿が、脱走仲間たちが現れた途端、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに握手したりなんかして。
どうやらピース卿にとって、彼らは親や友人らよりも、収容所仲間が一番 ”繋がった存在” になっていたらしい。任務があるから愛想悪くしていたけど、内心はわちゃわちゃしたかったのかも。
おまけに捕虜収容所の所長(敵です)までが登場して握手して、みんな仲良さそうにじゃれあって、映画は楽しそうに大団円。んなわけネーダロって感じ(笑)で楽しい。
その収容所仲間たちの「戦後の」人生も面白い。
まず、収容所時代に女装してラインダンスをやっていて「ブラジャーがきつい」と文句を言っていたベインズは、補正下着のトップ・デザイナーになっていたり、
女好き全開だったクーパーは、なぜか女と最も縁遠い(はずの)「宣教師」になっていたり、
トンネル堀りに一番情熱を傾けていたエベレットは葬儀屋になって、今でも穴を掘っているというオチ。
戦争ものなのに軽く楽しめる佳作という感じだった。
ちなみにトンネル大好きのエベレットと収容所の所長は、スタンリー・バクスターの二役。
ところで、こっちは捕虜収容所なんて奴隷にも等しいというか、もの凄く厳格で自由ゼロなのではないかと思ってるのに、この手の捕虜収容所が舞台の映画って結構楽しそうなことが多くって、こういうシーンを見ると「なんか楽しそうでいいなあ」と思ってしまう。
実際にこんなんなのかしら(欧米では)。
他の映画でも、例えば最近見た 『第十七捕虜収容所(1953)』も今作と同じくドイツの捕虜収容所に囚われた連合国側の兵士が脱走しようとする話だったけど、ネズミ競馬で賭け事はするわ、じゃがいもの皮を蒸留して酒をつくるわ、望遠鏡を作って女性捕虜たちを覗こうとするわ、ラジオで音楽を聞くわ、結構やりたい放題。
もちろん今作もかなり緩い。
カーテンが付いていないナチス兵から丸見えの部屋で、ファーロー中尉は脱走したことになっているのにちょくちょく穴から出てきてくつろいでるの。普通にベッドで横になっていたり、靴下の穴を繕っていたりして、なんかすぐバレそうだし、
収容所には劇場とかもあって、同じ7号室の脱走仲間のクーパーとべインズは、最初は漫才コンビとして登場し、続いてラインダンスのメンバーになって女装して踊ったりなんかしてる。
ジュネーヴ条約ってやつですか。私、筋金入りのぼっちなもんで、今回もやっぱり「楽しそうでいいなあ、羨ましい」って思ったね。