ぱっとみ映画感想ブログ

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類猿人ターザン (1932)

 

 

題名 類猿人ターザン (Tarzan the Ape Man)
監督 W・S・ヴァン・ダイク
制作 アーヴィング・タルバーグ (クレジットなし)
原作 エドガー・ライス・バローズ 「類猿人ターザン」
出演 ジョニー・ワイズミュラー、モーリン・オサリヴァン
上映時間 100分
制作年 1932年
制作会社 MGM
制作国 アメリカ

 

 

象牙で一旗揚げたいジェームズ・パーカーは、伝説の象の墓場があるというムチア山を探しているが、「見たものは死ぬ」との伝説があるムチア山の場所を教える原住民は誰もいない。

そこへ娘のジェーンがアフリカまでやってくる。ほどなくムチア山のある方角を知った一行は、わずかな手がかりにも拘わらず出発。到着したムチア山でのいくつかの危機の後、ジェーンは白人の男にさらわれる。彼はターザンと名乗る、猿に育てられた男だった。

一行は原住民の妨害にあいながらも、ターザンや動物たちの力を借りて象の墓場にたどり着く。

 

 

ターザンとジェーンはもちろん恋に落ちるのだけど、途中で池だか川だかで延々8分間もの間いちゃいちゃしたあと、超小柄族の原住民にさらわれたジェーンを救うためターザンとチンパンジーのチータ、それから象も大活躍するのだ。

こんなアクション見たことあるか。

 

原作はエドガー・ライス・バローズの小説『類猿人ターザン』。シリーズ化されていて、日本でハヤカワ文庫が出しているものだけでも25巻ある。派生作品も多いし、知らない人はいないと言っていいキャラクター。

映画版もシリーズ化されていて猛烈にある。1918年にエルモ・リンカーンがターザンを演じたのを皮切りに、現在にいたるまで50作品以上。なかでも最もターザンを演じているのがジョニー・ワイズミュラーで、12作品を数える。

 

ところで世間が頭に思い浮かべるターザンのイメージと、原作のターザンはまるで別物。原作では「アーアアー」とは言わない。でも映画では世間がイメージする通りのターザンが見られる。

 

とりあえずワイズミュラー版第一作目の、たくさんある見どころをまとめておく。

まずなにが凄かったって、主演のターザン役ジョニー・ワイズミュラーが凄い。えらく美しいの。

とてもハンサムで、高身長で、美しい筋肉美。文句ない美男子。髪の毛もびっしり生えていて、この毛量が萌える。そして全シーンがほぼ裸。ふんどし一丁。

その完璧ともいえる美しさの、ほぼ全裸姿で、「アーアアー」と叫びながらジャングルの密林の中をサーカスの空中ブランコの要領で次々と飛びまわり、木から木へと軽やかに飛び移っていくのだ。

いいよー、ターザン。

 

そして動物&猛獣たちが本物ですごい。

猛獣や野生動物がたくさん出てくるけど、ライオンやチンパンジー、象は本物。ワニとカバは途中で人形というか模型というか作り物になる瞬間があったと思うけど、だいたいは本物が出てくる。

その中でもターザンの仲間の象たちが大活躍。どのシーンでもターザンとの信頼関係が伝わってくる、いいシーンばかりだった。

特に一頭の象が穴に落ちて這い上がれなくなった時、その象のSOSを聞いたターザンと象たちが協力し合って穴から救い出すところなんかは、ターザンと一緒になって象たちも丸太をどかしたり、ロープを引っ張って落ちた象を穴から引き揚げたりして、対等に協力し合う関係なんだな、という感じで良かった。

その救出に向かう時にターザンが「ヘイ!タクシー」じゃないけど、「アーアアー!」と例の有名な雄たけびをあげると象が一頭、迎えに来てくれるの。その象に飛び乗って救出に向かう! 

すごく仲良しな感じで見てて楽しい。

 

さらに映画半ばあたりにライオンと2~3分もの格闘シーンがあるけれど、これ本当に格闘してない? 本物のライオンとプロレスですよ、レスリングですよ、がっぷり四つの相撲ですよ。迫力満点。

これどうやって撮影したんだろう。ターザン、途中で腕、喰われてたけど。おまけに象に頭を咥えられて運ばれてたし。

まあたぶんスタントなんだろうけど、それと感じさせない編集もカット割りも上手い。白黒映画で、映像も今みたいに鮮明じゃないことも手伝ってのことだろうけれど、普通に見てると本人が全部やってるように見える。

 

それからターザンの友達であるチンパンジーのチータがかわいい。チンパンジーなのにチータ。そして大活躍。

最後、類人猿に足を持たれてブンブン振り回されて、地面に叩きつけられて放り投げられてたけど、あれは普通死ぬでしょ。がんがん頭を打ち付けられてたもん。

 

その中で、ターザンの仲間である類人猿だけは着ぐるみだったと思う(さすがに)。でもすごくよく出来ていて、着ぐるみ自体もよく出来ていたように思うけど、動きがすごく猿っぽいというか、オランウータンとかみたいなヒト科の類人猿ぽい動きをしていてリアリティがあった。

途中で類人猿たちがジェーンを投げてキャッチボールするといふ暴挙が繰り広げられてたけども。

まあ吹き替えだろうけど、女優さんて、大変って思ったね笑。

 

というわけで、見どころしかないとても楽しめる映画だった。とはいえ原作とはまるで別物。

ストーリーも違うし、登場人物のキャラ変も凄いし、はっきり言ってエドガー・ライス・バローズ原作のターザンとはかなりかけ離れている。

原作だとまずターザンは貴族の血が流れてるんだけど、そういった素性部分はバッサリカット。完全スルーで全く出てこない。ワイズミュラー版の映画ターザンはシリーズ化されていて12作品に上るらしいから、どこかで「実は貴族だった!」とエピソード・ゼロ的にでてくるのかしら。

原作ではターザンは「アーアアー」とは言わないし、特殊な出生と生い立ちにも関わらず、人間らしい知恵と知性を独力で獲得する高い知能を持ち、第一巻の終わりの方ではダルノー中尉の助けもあって英語とフランス語がペラペラになっているというかなりのインテリなのだけど、

この映画では最後まで「おれターザン、お前ジェーン」式のカタコトを発するだけで、知性とは無縁に終わっていく。

 

他の登場人物も、ジェーンの父親は「世間知らずで研究の事しか頭にない学者」から「象牙で一攫千金をもくろむ貿易商」へ変更。

「ターザンの恋敵で実はいとこ」のクレイトン青年は出てこない。ホルトさんがその代わりなのかもしれないけど、そこまで大きな存在にはなっていなかった。

 

ジェーンは元々原作でもそれほど個性が強くはないけれど、映画版はいたって健康的で単純明快な活発なお嬢さんという感じで、原作のジェーンが持つ思慮深さや細やかな感情面がなくなってたかな。原作のジェーンの方がフクザツな心理を持っているように思う。

 

さらに大きな違いは、原作ではアメリカに帰ったジェーンを追ってターザンがアメリカへ向かうんだけど、映画は二人でアフリカで暮らしましたとさ、的な終わり方になってた。ぜんぜん違うじゃん。

これだと続編のストーリーも相当違うものになるだろうことは必死。

 

原作はターザンの血と汗と涙と苦悩と絶え間ない努力、自分を育ててくれた類人猿の集団内での葛藤や、「自分はみんなと違う」という疎外感に苛まれている。

そしてそういったコンプレックスからくる「自分は偉大な人間の子なのだ、お前たちとは違うのだ」という自負心、そして夢にまで見た白人に対する失望が描かれるなどかなり複雑で深い作品なのだが、映画でのターザンと類人猿との関係はまるでユートピアのようで葛藤など全くない。

「みんな仲良く幸せな大自然」という感じで、そうなると最後ジェーンが「ここに残りたい!」と思ったのも当然だし、「なるほど、こういう展開であれば、のちにディズニーが映画化しようと思うのもうなづけるなあ」と思った。

 

続編が楽しみ。

 

 

類猿人ターザン(字幕版)

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