題名 幻の女(Phantom Lady)
監督 ロバート・シオドマク
原作 ウィリアム・アイリッシュ 「幻の女」(1942)
出演 アラン・カーティス、エラ・レインズ、フランチョット・トーン、トーマス・ゴメス
上映時間 83分
制作年 1944年
制作国 アメリカ
主人公の男が妻と喧嘩し、二人で行くはずだった劇場に、バーで知り合った見知らぬ女を連れて行く。そして帰宅すると妻が死んでいた。男は女にアリバイを証明してもらおうとするが、バーでも劇場でも、乗ったタクシーの運転手までもが誰も女を覚えておらず、男は逮捕されてしまう。男の窮地を救おうと、彼の秘書が捜査に乗り出す。
ウィリアム・アイリッシュの小説『幻の女』の映画化。原作は映画化に不向きだと私は思っているから、たぶんイマイチだろうと思いながら見たけれど、思ったより悪くない。
原作と比べると劣っているところもあるけれど、映画ならではの部分も多くて良かった。
白眉だったのは、秘書役のエラ・レインズが引っかけたドラマー(『現金に体を張れ(1956)』などのエリシャ・クック・Jr)と一緒に出掛けていく、ジャズ・クラブ(?)のシーン。
たぶん仕事での演奏が終わって、それでもまだ演奏し足りないジャズ・マン達が集まって、お金ではなく自分のために楽器を演奏しまくっているという感じで、
戦中の、場末の一室で、汗の臭いと煙草の煙と酒の臭いが感じられる、むせるような、狂ったような迫力のある演奏シーンで圧巻だった。野生的。このシーン、たぶん私は忘れないと思う。
俳優陣も良かった。キャスティング、割と原作のイメージ通りだったんじゃないかな。
原作で「ハンサム」と書かれていた(と思う)主人公はアラン・カーチスで、実際にハンサムだったし、
秘書役のエラ・レインズがとてもチャーミングでハツラツとして賢そうで、原作通りという感じ。彼女はバート・ランカスターの『真昼の暴動(1947)』に出ていたらしい。
私、これ見てるけど思い出せないなあ。女、出てたかなあ。そのうちまた見てみよう。
主人公の友人役のフランチョット・トーンも神経質そうで、顔の神経が麻痺したかのような表情とか迫力あったし、佐藤優似の刑事役トーマス・ゴメスも頼りがいがある感じが良かった。
「幻の女」がかぶっている帽子が全然違うとか、秘書がバーテンダーを追い詰めていく、ものすごく効果的で印象深い、超怖くて戦慄すら覚える “あの” シーンが、小説ほどは効果が出ていなかったりもしたけれど、
深夜の街並みが静謐で、「ああ、アイリッシュっぽいなあ」と思った。
アイリッシュは夜のイメージだからモノクロ映画とは相性がいい。