
映画『凡てこの世も天国も(1940)』のデータ
題名 凡てこの世も天国も(All This, and Heaven Too)
監督 アナトール・リトヴァク
出演 ベティ・デイヴィス、シャルル・ボワイエ
上映時間 141分
制作年 1940年
制作国 アメリカ
映画『凡てこの世も天国も(1940)』のあらすじ
アメリカの学校に、女教師アンリエットが赴任してくる。すると事情を知っているらしい一部の女生徒たちが、彼女を「マドモアゼルD」と呼んで騒ぎ立てる。どうやら彼女には隠された過去があるらしい。動揺するアンリエットだったが、やがて自らの過去を生徒たちに語り始める。
かつてアンリエットは、パリのプララン公爵邸で子どもたちの家庭教師を務めていた。プララン公爵はヒステリックな夫人と不仲で、子どもたちも母の愛を感じられずにいた。一家はどこか冷え切った、満たされぬ日々を送っていたのである。アンリエットは、そんな家庭にあたたかな愛情の風を吹き込んでいく。
子どもたちに慕われ、深く愛されるアンリエットは、公爵とも次第に信頼関係を築いていく。しかしその親密さは、上流階級の社交界であらぬ噂を呼ぶこととなる。ついには新聞に「P公爵とマドモアゼルD」と書き立てられ、庶民の間にまで二人の不貞の噂が広がってしまう。当然ながら、それはプララン公爵夫人の激しい嫉妬と怒りを招いた。
そしてこの醜聞は全員を不幸にし、やがてはフランス国王ルイ・フィリップの王位をも揺るがす大事件へと発展していく。
映画『凡てこの世も天国も(1940)』の予告編
映画『凡てこの世も天国も(1940)』の感想
驚くことにこの映画は、あの『風と共に去りぬ』(1939年)に対抗して制作された作品らしい。
『風と共に去りぬ』の映画化権をセルズニックに奪われたワーナーが、代わりに当時のベストセラー、レイチェル・フィールドの『All This and Heaven Too』の映画化権を取得して、セルズニック&MGMに負けまいと、多額の製作費を投じて本作を作り上げた作品らしい。
Wikipediaによると、
制作費は137万ドルで、船や田舎のシャトーを含む 65 の屋外セット、公爵の家にふさわしい豪華で豪華な本物のアンティークで装飾された 35 の室内セットなど贅を尽くした。
とのこと。
でも結果は周知の通りで、『風と共に去りぬ』は空前の大ヒットを記録し、アカデミー賞主要部門だけで8部門を受賞。映画史に残る名作となった。
一方、本作の方は一定の成功を収めたかもしれないけれど、さすがに『風と共に去りぬ』には及ばなかった。
敗因はいくつかあると思う。
まず映像面。当時は白黒映画が主流で、本作も白黒作品だった。でもなんと『風と共に去りぬ』はテクニカラーによる総天然色。今作がいくら豪華なセットを組んでも、白黒とカラーでは画面の華やかさに決定的な差がある。
スター性の差も大きいと思う。ベティ・デイヴィスとシャルル・ボワイエも名優だけど、ヴィヴィアン・リーとクラーク・ゲイブルのカリスマ性は別格すぎた。
私はシャルル・ボワイエのファンなのだけれど、スター性がクラーク・ゲイブルに勝るとは思わない。
さらにどちらもヒロインの半生を描く大河ドラマなのは同じだけれど、ヒロインのキャラクターが全然違う。
スカーレットは我が強くて、身近にいたら耐えられないと思うけど、それが「自分に正直」という風に理解されて、観客の心を強烈につかんだと思う。
本作のヒロイン、アンリエッタも強い女性ではある。でもアンリエッタはあくまで理性的で常識的。その慎み深さが、”迫力” という点では物足りなさにつながったのかも。
それでも本作は十分に見応えのある作品で、運命の無慈悲さを描く展開には力があるし、アカデミー賞作品賞にノミネートされたのも納得できる。
アンリエットを演じたベティ・デイヴィスは、いわゆる典型的な美人じゃない。でも一度見たら忘れない強い印象を残す顔立ちと、大きく特徴的な目を持つ女優。
1981年にヒットした『ベティ・デイヴィスの瞳』という曲の題名にもなったほど、その目は象徴的。大きな目で三白眼なの。
彼女は派手さよりも、現実味と説得力で魅せる、実力派の大女優だと思う。
プララン公爵を演じたシャルル・ボワイエも安定した存在感。
彼が演じる公爵は、常識的で忍耐強く、子供たちを深く愛する父親で、裕福な妻の実家に頭が上がらず、愛の冷めた結婚生活からも抜け出せないという、苦しい立場に置かれている。
アンリエットと公爵は互いに惹かれ合いながらも、一線を越えず節度を守る。その誠実さは美しいのだけれど、スカーレットとレット・バトラーのような激しさには欠ける。そこが印象の差につながったと思う。
それでも、シャルル・ボワイエには独特の色気がある。とろりとした目つきや柔らかな話し方にはどこか妖しさがあり、冷徹な役も温かい役もこなせる二面性が魅力。
そして公爵の子供たちが愛らしいことといったらない。とりわけ末息子レイナルドが可愛くて、バイエルン王ルートヴィヒ2世風の独特な髪型がよかった。
全体としては、『風と共に去りぬ』というあまりにも偉大な作品と同時代に生まれた不運はあるけれど、映画自体は十分に評価されてしかるべき良作だと思う。
