映画『少年と犬』のデータ
題名 少年と犬(A Boy and His Dog)
監督 L.Q.ジョーンズ
脚本 L.Q.ジョーンズ
原作 ハーラン・エリスン 「少年と犬」(1969)
出演 ドン・ジョンソン、スザンヌ・ベントン、ジェイソン・ロバーツ
上映時間 90分
制作年 1975年
制作国 アメリカ
映画『少年と犬』のあらすじ
第4次世界大戦はたった4日間で終結。人類は核で滅びかけ、食料も女も何もかもを力づくで奪う弱肉強食の世界と化していた。主人公ヴィックは、テレパシーや千里眼的な能力を持ったインテリ犬ブラッドを相棒に、ヴィックは女を、ブラッドは食料を求めて砂漠をさまよう。
ある日、若い女ジューンを襲おうとしたヴィックは、彼女から地下に楽園があると聞かされる。「これは罠だ」と反対するブラッドを振り切り、彼女が落としていった地下へのカードキーを手に入口へ向かう。
地下深くの町トピーカに着いたヴィックは住民に確保されてしまう。長年の地下生活が原因で町の男は生殖能力がなくなっており、ヴィックは種馬としておびき出されたのだった。大勢の女とやれると思って最初は喜ぶヴィックだったが、すぐに現実を知って逃げ出すことにする。
映画『少年と犬』の感想
映画『マッド・マックス2』(1981)に大いに影響を与えたと言われる作品。『世界の中心で愛を叫んだけもの』でおなじみハーラン・エリスンの原作で、核戦争で滅びかけた近未来が舞台。80年代のスター、ドン・ジョンソンの出世作でもあって、若くてかわいい頃のお姿が見られる。
喋る犬と共にサバイバルする少年が、地下にある豊かなソサエティに潜り込み、幻滅し、荒廃した地上に戻っていく話。
その荒廃した世界観は診る価値十分。「町」と呼ばれるバラックが立ち並ぶ小さな集落で、ヴィックが銃をあずけ、ポップコーンを買い、ポルノ映画を見るシーンは私のお気に入り。荒廃した世界観がすごくいい。
そんなヴィックの前に、ジューンというちょっと男好きする生意気な感じの女が裸で現れる。
このジューンが曲者で、えらい権力欲の塊なの。
ジューンは、地下にある町トピーカの委員会(小さな政府みたいな感じ)に入りたくて、生殖能力のある男を連れてくる代わりに委員会に入れてもらう約束をする。そしてヴィックを騙してトピーカにおびき出す。
でもずる賢いトピーカの大人たちが約束を守るはずもなく、ジューンは自分がいいように利用されたことに気が付いて、改めてヴィックを利用し、委員会から権力を奪おうと画策する。
そして大人たちだけでなくヴィックも思い通りにならないと分かると、一転「愛してるわ」とすがりついて媚を売る。
どこまでも強欲で浅ましい。ギラギラしてて、自分の欲望に迷いがなくて、猪突猛進。彼女は最後まで自分勝手な強欲さを貫くのだ。
そんなジューンが住み、ヴィックがおびき出されたのが、偽の理想郷「地下の町トピーカ」。
アメリカ南部のイメージなのかな。オーバーオールとか、英国風トラッド・ファッションとか、フリルとリボンのついたワンピースとか、そういう清潔そうな服を着て、マーチングバンドなんか演奏してて、人々は善良感一杯で、いかにも腐敗していそう。
反抗したりすると「農場行き」になるらしいが、その「農場」とやらは出てこない。
「農場行き」が決まったジューンがやたらと怯えまくって、「地上に連れて行って、今すぐ」と、すごいブスになってヴィックに哀願するから「どんな強制収容所やねん」と思って見ていると、どうやら首の骨を折られて殺されるらしい。そりゃあブスにもなるわ(笑)。
こういう、表面的には善良に清潔にキレイにしてて、実際は恐怖政治ってほんと怖い。
そして迎える、この映画の名物「衝撃のラスト」。相当ブラックな結末なのに、あっけらかんと笑いながら終わる。ジューンに対して無言で怒っているドン・ジョンソンがいい。
ハーラン・エリスンの原作と比較すると、ストーリーは原作を大きく外れることはないけれど、設定を随分いじっている。原作ではビルなんかもある荒廃した都市部が舞台だし、クイラ・ジューンも野心家というよりもただの女の子って感じ。ヴィックが種馬的におびき出されるのは同じだけど、精子だけを貰おうと機械につながれるわけではない。
問題の衝撃のラストは同じといえば同じ。でも全然違う。
これはクイラ・ジューンの設定の違いがラストシーンの印象を大きく変えているのだと思う。
映画の方は、「クイラ・ジューンのなりふり構わない程度の低い悪女ぶりがムカつくからヴィックに見捨てられた」っていう印象だけど、
原作の方は、クイラ・ジューンがどうのというよりも、「女の持つ本質的な身勝手さと面倒くささ」が原因で、ヴィックは女といつでもやれる利便性より自由を選択したんだな、という感じがする。
どちらも残酷な結末ではあるけど、どちらをより残酷だと思うかというのは個人差があると思う。
私は、衝撃度では、各設定を増幅してエンターテインメントであることを強く強調した映画の方に軍配が上がると思ったけど、
残酷さでは、原作の方から漂う「自由を選ぶ男は強くて自立していて格好いい」という「幻想」・・・と言って悪ければ「男のロマン」みたいなのものは、男の人の本音のひとつだと思うから、女の私としては原作の方が現実的で残酷だと思った。