
映画『さらば青春の光(1979)』のデータ
題名 さらば青春の光(Quadrophenia)
監督 フランク・ロッダム
出演 フィル・ダニエルズ、レズリー・アッシュ、スティング
音楽 ザ・フー
上映時間 117分
制作年 1979年
制作国 イギリス
映画『さらば青春の光(1979)』のあらすじ
60年代のロンドン。主人公のジミーは広告会社のメールボーイで、仕事はクソみたいな雑用だけ。家に帰れば同じく退屈で希望のない両親が、カウチに座ってテレビを眺めている。ジミーはモッズ仲間と共に、バイクとドラッグ、パーティ、喧嘩に明けくれている。ある日モッズとロッカーの大きな集会で、モッズのカリスマ、エースと出会い憧れを募らせる。
両親と大げんかの末家を追い出されたジミーは、街でエースのバイクを見かける。ところがエースはホテルのベルボーイの制服を着て、金持ちの荷物を運んでいた。幻滅したジミーはエースのバイクを盗み、岬へと走り出す。
映画『さらば青春の光(1979)』の予告編
映画『さらば青春の光(1979)』の感想
バイク、ドラッグ、パーティ、ケンカ。つまらない両親につまらない仕事、希望のない未来。60年代の若者が、精一杯背伸びしてイキがって、そして絶望していく、ジリジリとした焦燥感が炸裂した青春映画の大傑作。原作は、ザ・フーのロックオペラ・アルバム「四重人格」。ファッションはモッズ。
一度目は退屈な映画だと思った。全く良さが分からなかった。だけど間を置いて見返したら、心に刺さる傑作だった。
登場人物たちは、別段どうってことのない、目立たないごく普通の若者たち。ハンサムでもないし美人でもない。映画の中で ”ルックスが良い”ということになっているピーターだって、別に大して格好良くない。
中学とか高校にいたなあ。学校ではなぜかカッコいいとか可愛いということになっているけれど、よく考えてみたら別にどうってことなかったという同級生が。なんで彼らが「カッコいい認定」「可愛い認定」されてたんだろう。
それがピーター。
だけど都会に出ると、本当に格好いいヤツ、ずば抜けてかわいい子がいることを知る。もう桁違いなのがいることを知るよね。
それがエース。
スティング演ずるエースだけは、さすがに格が違う感じで目立っていた。
私はこのピーターとエースのキャスティングを見て、「なんてリアルなキャスティングなんだろう。これは特別な物語ではなく、私の人生とつながっているのだ」という感じがして、すごくリアルだと思った。
それに私、ジミーが分かる。いい年をして独身子なし中二病の私は、このジミーは私だと思った。「若い頃ジミーみたいでさあ、気持ちわかる」とかじゃなくて、“今の私が” 分かる。
そうなんだよ、親はね、大人はね、ずるいのよ。こっちが決して言い逃れできない失態を取り上げて責めてくるの。
ジミーの両親はジミーに「ドラッグがどうの」「警察にやっかいになってどうの」「仕事がどうの」「仲間がどうの」「ご近所さまがどうの」ってうるさく言っていたけれど、そういう細かいひとつひとつのことだったら、そりゃあジミーが悪いよ。
だけど、ジミーが言いたいのは、ジミーがイライラと怒っていて、不良行為までして全身で叫んでいるのはそういうことじゃないの。ジミーにとって大事なのは、そんな小さな事じゃないの!
あなたたちには絶対に分からないことだと思うけど、永遠に分からないことだと思うけど、でも言わなきゃいけないことだから言うよ!
ジミーはもっと大きな、生き方とか在り方とか、人生とか、美学とか理想とか、そういうので葛藤してるからイライラしてるの!
格好よく生きたいけど上手くいかない。周りを見回してもお手本はいない。口では格好いいこと言ってても、実際はずるくて大したことない人間ばっかり。それでイライラしてるの!
要するにジミーは自分の親みたいに、あんたたちみたいになりたくないの!
だけど、なっちゃいそうだからイライラしてるの!
その証拠にジミーの仲間たちは、今は一緒になって「社会への反発」「自分を待ち構えている、つまらない未来への抵抗」みたいなことしてるけど、結局は時が経てばみんな、さらっと “そういう風” になっていきそうな気配がもう漂ってるじゃん。
結局、ジミーだけが取り残されて、バカを見そうな気配が濃厚じゃん。
そしてきっと、きっと、そのうちジミーも “そう” なっちゃうじゃん。。。
ジミーは自分でもそれが薄々分かってるから、だから余計に苛立ってるの!
私、気持ちわかる。本当にこの映画はよく出来ている。あああ、大人になるってなんなんだろうなあ。
だけどいいよ、若者は。グレたり拗ねたりしても若いから負け犬感もなくて、「若さ故の過ち」とか言えて、結果的にはそれが ”青春” てことになって。
私みたいないい年した大人がグレると、頭悪そうだし、みすぼらしいし、負け犬感がハンパなくて格好がつかないからなあ。
