題名 極北の怪異 (極北のナヌーク)(Nanook of the North)
監督 ロバート・フラハティ
上映時間 78分
制作年 1922年
制作国 アメリカ
史上初のドキュメンタリー映画。怠けたら死ぬ世界。
今から100年前の1919年、カナダの極北に住んでいたエスキモー(イヌイット)の家族を一年かけて取材したドキュメンタリー映画。
主人公は狩りの名手ナヌーク、その妻ニラ、3人の子供、そして犬。雪と氷の中で狩りをし、肉も魚も生のままかぶりつく。イグルーと呼ばれる家は氷でできているのに、みな裸で毛皮にくるまって寝ている。
物はないし食べ物の種類も少ない。本も映画も音楽も漫画もない。近隣に友達がいるわけでもない。見渡す限りの大氷原しかない。すぐに死にそうな過酷な環境だから安全もない。
なのに彼らはすごく楽しそう。怠けたら死ぬし、甘えは許されない生活なのに。
幸せって何だろう。これほど過酷な生活にも関わらず、彼らはすごく幸せそう。笑顔が心底笑ってる。あんな笑顔、私見せたことあるんだろうか。
私も現代人なので、過去には7年も引き籠ってみたり、鬱になって精神科を受診してみたり、そこまでいかなくても憂鬱とか屈辱とかで仕事を辞めたり、辞めたくなったり、色々あった。これからもあると思う。
でも、この映画を見ると、私がここに叩き込まれたらあっという間に鬱とか憂鬱とかコミュ障とか引きこもりなんて吹っ飛んで、迷いなく、生きることに全力を傾けられるんだろうなあ。
みんな私の事どう思ってるんだろう、みんなと比べて私はどうだろう、優秀かな、無能かな。そんな余計なことを考える余裕も必要もない。
全力で生きて、死ぬときに死ぬだけ。無能もへったくれもない。
うらやましい。生きるってこういうことなんじゃなかろうか、と思わされる。幸せって、こういうことなんかなあって。
じゃあやるかと言われれば嫌なんだけど。
話は変わるが、印象的だったのはナヌークたちと犬の関わり方。
犬といっても、私たちが知っている愛玩犬のような ”ぬるい犬” では全くなく、飢えて、牙をむき出して唸っているような、野生むき出しの犬。超恐い。
その野生の犬とナヌークの関わりあい方が、われわれ現代人とは全く違う。ナヌークは犬たちを完全に管理し、そしてそれを徹底している。あれは誰が主人なのかを分からせているのだと思う。
では、犬を畜生として見下しているのかといえばそうではなく、犬を自分たちの子供と同じように扱っていた。
「あれは自分の財産だから大事にしているだけ」とか、そういうのではない、深い愛情を感じた。
史上初のドキュメンタリー映画とも言われているけど、実は「やらせ疑惑」があって、実際はナヌークさんの名前はナヌークではなかったし、妻のニラも偽物だったらしい。二人はまったく別人であり、他人なのだった。
イグルー内の様子もセットだったらしい。まあ確かに言われてみれば、当時の巨大カメラを入れなくちゃいけないわけだから、実物ではちょっと難しかったかもね。
それでも私は、この映画はすばらしく価値がある作品だと思う。他の作品では替えの利かない、心に刻まれる名作だと私は思った。