
映画『カスバの恋(1938)』のデータ
題名 カスバの恋(Algiers)
監督 ジョン・クロムウェル
出演 シャルル・ボワイエ、シグリッド・グリー、ヘディ・ラマー
上映時間 99分
制作年 1938年
制作国 アメリカ
映画『カスバの恋(1938)』のあらすじ
フランス人宝石泥棒 ペペ・ル・モコは、故郷フランスでの逮捕を逃れ、アルジェリアの古い城壁都市カスバ地区に潜伏していた。狭い路地と複雑な迷路のような町並みのカスバは、アウトローたちが警察の捜査をかわす拠点となっており、ペペは地元住民たちの理と協力を受けながら暮らしている。
ある日、フランスからやってきた富裕な女性ギャビーがアルジェリアを訪れる。ギャビーと出会ったペペは彼女に強烈に惹かれていく。そしてペペはギャビーを連れてヨーロッパへ逃亡することを夢見るようになる。
しかし、ペペにはかつてからの情婦イネズがいた。イネズは嫉妬を募らせ、ペペを裏切ってしまう。そのイネズの密告によってペペの立場は危うくなり、彼の夢は崩れ去る。
帰国するギャビーを追って2年ぶりにカスバを出るペペ。ギャビーの乗る客船に乗り込むが、イネズの密告により追ってきた警察に逮捕される。手錠をかけられ、立ち去るペペ。と、ギャビーが甲板に現れる。それを見送るペペ。ギャビーを呼ぶが、霧笛にかき消されてギャビーの耳には届かない。思わず走り出すペペ。そこを警察官に射殺される。
映画『カスバの恋(1938)』の予告編
映画『カスバの恋(1938)』の感想
ジャン・ギャバン主演の有名な作品『望郷(1937)』のアメリカ・リメイク版。
私はたいてい、先に見た映画の方が良かったと思いやすくて、さらにオリジナルの方が良かったとも思いやすい。
でもこれに関しては、後から見た上にリメイクの本作の方が良かった。話がスッと入ってきたし、武骨なジャン・ギャバンよりも、若干の女たらし感もあるシャルル・ボワイエの方が、ペペ・ル・モコに合っていた気がする。
一見して驚いたのは、このリメイク版が、オリジナルのカット割りや演出までもがそっくりそのまま、まるでコピーのように似せて作られていたこと。
これには驚いた。でも悪い気はしない。
なぜなら構成がそっくりにも拘らず、全然違う印象を受けたから。
どちらのペペも、ギャビー本人だけでなく、ギャビーの向こうに見ているものがある。それがオリジナルのペペは「故郷パリへの思慕」、リメイクのペペは「自由」という感じ。
オリジナルの方は、カスバの町に囚われ一歩も出ることができない主人公ペペの「パリへの憧れ」「ノスタルジーやホームシック」が強調されている(だから邦題も『望郷』)。
でもリメイクの方は、もちろん「望郷の念」もあるけれど、それよりもカスバから一歩も出られないペペの「手が届かない女への憧れ」や「自由への渇望」の方が強調されていたと思う。
そしてなにより映画の終わり方が劇的に違う。この終わり方も私はリメイク版の方が好きだった。オリジナルの終わり方はちょっと女々しすぎる気がする。
それに『望郷』の感想でも書いたけれど、故郷を失ったことのない私にとって、故郷への望郷の念というのは、頭では理解できても心では理解できない。
でもリメイクの「自由への憧れ」は分かる。私は自由であることをすごく大切なことと思ってるもんで、、、
ラスト近く、おそらく行けば破滅が待っていることを予感していたであろうペペが、ギャビーの乗る客船に向かってカスバの町を行く、その時のシャルル・ボワイエの表情が良かった。
若干夢見がちなような、不安や恐怖などよりもギャビーと共に向かった先にある自由を夢見ているような、覚悟を決めたようにも見える表情の、その複雑な心境を思うと胸が熱くなる。
ギャビーにとっては結婚前の思い出かもしれないけれど、ペペと、それからペペに心底惚れていながら裏切ることになってしまったイネズの、二人の純情が悲しい。
イネズ・・・いい女だったのに。ギャビーなんかよりも、もっとずっといい女だったのに。
カスバの女であるイネズには、自由を渇望する男に夢を見させることは出来なかった。
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