
映画『會議は踊る(1931)』のデータ
題名 會議は踊る(Der Kongreß tanzt)
監督 エリック・シャレル
出演 リリアン・ハーヴェイ、ヴィリ・フリッチュ、カール・ハインツ・シュロス、コンラート・ファイト
上映時間 95分
制作年 1931年
制作会社 ウーファ
制作国 ドイツ
映画『會議は踊る(1931)』のあらすじ
1814年、ナポレオン失脚後のヨーロッパ。戦後処理と勢力バランスを話し合うため、各国の王侯・外交官たちがウィーン会議に集結していた。
主人公のクリステルは、ウィーンで手袋を売って暮らす明るい活発な娘。ちょっとお転婆な彼女は、パレードのたびに店の広告付きのブーケを投げて、売り上げ貢献に余念がない。
そんなある日、ウィーン会議に出席するロシア皇帝アレクサンドル1世の歓迎パレードが開かれることになる。もちろんクリステルはロシア皇帝にブーケを投げる気満々。クリステルの事が大好きなペペに「そんなことやめろ!」と言われても、一向に言うことを聞く気はなく、ロシア皇帝めがけてブーケを投げつける。
ブーケはちゃんと皇帝の馬車に命中。ところがそれが爆弾騒ぎとなってしまい、クリステルは警察に捕らえられてしまう。
そこへアレクサンドル1世が現れ、恩赦を願い出る。クリステルは釈放され、一緒に酒場で乾杯する。二人は意気投合して惹かれ合うようになり、クリステルの事が大好きなペペは二人の急接近が心配で気が気でない。
一方、各国代表は舞踏会に夢中で、肝心の政治交渉は後回し。会議は全く進まない。
ペペの上司であるメッテルニヒ宰相は、会議にアレクサンドル1世が出席するのを好まない。そこでペペを使って皇帝の出席を邪魔しようと画策するが、皇帝は自分の替え玉を使ってそれをかわし、まんまと会議に出席する。
しかし会議室に舞踏会の音楽が聴こえてくると、出席者たちはひとり、またひとりと舞踏会に行ってしまう。メッテルニヒは誰もいない会議室で「満場一致で可決!」と宣言し、自分も踊り始める。
各国首脳が舞踏会で浮かれていると、そこへ伝令が現れ「ナポレオン、エルバ島を脱出、フランス上陸」とメッテルニヒに伝える。舞踏会は即刻中止となり、首脳たちは自分の国に帰っていく。
当然、アレクサンドル1世もロシアに帰国してしまう。アレクサンドル1世とクリステルは、先日と同じ酒場で別れを惜しむ。
映画『會議は踊る(1931)』の一場面 クリステルとペペの喧嘩シーン
映画『會議は踊る(1931)』の感想
ナチスドイツが台頭してくる直前の、ドイツ映画最盛期のきらめくような傑作。
もしあなたが、「”会議は踊る、されど進まず” で有名なウィーン会議が舞台」と聞いて、「そういえば教科書にあったな、歴史の授業で習ったなあ」などと思って、この映画をお堅くて真面目で重たい作品なのかと思っているとしたら、実にもったいない。全然そんなお堅い映画ではないです。
映画音楽も有名なオペレッタ映画で、ウィーン会議中のロシア皇帝と手袋店の売り子の恋を描いた喜劇で相当軽め。
そして恋愛ドラマと政治風刺が同時進行する、今風に言えばラブコメ・ミュージカルという感じ。
むやみやたらと主役のクリステルが可愛くて、彼女を見ているだけでウキウキワクワクすること請け合い。
なんてったって、パレードにロシア皇帝が来ると知って、店の宣伝文句入りの花束を投げつけようとやる気満々なんだから、微笑まずにはいられない(ロシア皇帝相手にですよ!)。
そして当然それを止めようとするメッテルニヒ宰相の秘書ペペだけど、その二人の掛け合いも可愛くて、おかしくて微笑ましくて、子供みたいにチャーミング。このふたり、実は超お似合いなのだ。
それなのにクリステルったら、さっさとぺピから皇帝に乗り換えようとしたりして、そういうところも ”お調子者” って感じで、まるで憎めない。
このクリステルを演じたリリアン・ハーヴェイの仕草や動作が愛らしくて、くるくる表情が変わって最高に可愛らしい。
それも動きがシンディ・ローパーそっくりなの。シンディがこのクリステルを真似していたのではないかと思うほど。ぜひ見て欲しい。
一方のロシア皇帝もやたらとノリが軽くて、重みゼロ(悪口ではない)。
ヴィリ・フリッチュという俳優がロシア皇帝と替え玉役の二役を演じているのだけれど、替え玉の方は頭が薄くて女好きで、ロシア皇帝の替え玉という荷が重い役目なのに、せっせと刺繍なんかに精をだして終始お気楽そうな様子。まるっきり何にも考えてないの。
では本物のロシア皇帝はどうかというと、ただの手袋売りの小娘相手なのにちゃんと誠実に親切な感じがして好感が持てるけど、それも割とノリのいい軽めの性格だからと思われる。
つまりどっちも軽めなの。このアレクサンドル1世も微笑ましくて、見ていて楽しい。
でもこの映画のクライマックスは映画中盤。クリステルが皇帝の差し向けた馬車に乗って、皇帝の別荘へ向かう長回しのシーン。
ここでクリステルはかの有名な『唯一度だけ』を歌うのだが、まず歌が素晴らしい。そして移動撮影による長回しが圧巻。
「これは夢? それとも現実? 泣いたり 笑ったり
どうしたらいいの 人々がこぞって笑いかける
おとぎ話がほんとになった 今日 すべてが明らかに
この世に生まれて ただ一度 この素晴らしさ まさに夢
奇跡のように降りそそぐ まばゆい黄金の光
この世に生まれて ただ一度 きっと これは夢 まぼろし
人の一生に ただ一度 二度と帰らぬ 美しい思い出
人の一生に ただ一度 花のつぼみ ほころび 花ひらくとき」
引用:映画挿入歌『唯一度だけ』より
ウキウキと無邪気に嬉しそうなクリステルを、長回しの移動撮影が追いかける。
祝福する街の人々、市場の活気、橋の下で語らう恋人たち、ボートで川遊びをする人々、釣りをする人、ピクニックをする人々、川で洗濯をする女たち、フォークダンスに興じる子供たちが、次々とパノラマのように通りすぎて行く。
若々しくて幸福感に溢れ、ウキウキ、キラキラ、場面が輝く。
別荘に着いてもクリステルの幸福感は終わらない。別荘の豪華さに目を奪われ、くるくる、ころころ動き回る。使用人たちにちょっかいをかけ、噴水にもちょっかいをだし、ペットの猿に挨拶して、クローゼットの衣装に喜び、ベッドで跳び跳ねる。
7分くらいある長いシーンだけど、幸せが溢れる溢れるという感じ。その間流れる『唯一度だけ』は、ああ、やっぱり名曲で、無条件で楽しい気分になる。
これほど多幸感にあふれるシーンが他にあるでしょうか。
この移動撮影を使った長回しは本当にすごい(以下に動画を貼っておきます)。
当時のカメラは、今みたいなハンディなやつじゃなくて、信じられないくらい大きなカメラなのに、ここまでの移動撮影。映画史に残る最高のシーンを撮ろうという熱意を感じる。
そして映画のラスト、別れのアレクサンドルとクリステルのために、酒場の楽団が歌う『唯一度だけ』は哀愁のアレンジ。
日が落ちて、楽しかった一日が終わっていく、子供の頃の夕焼けみたいな感じ。子供心にノスタルジーを感じた、夏の日の思い出。
同じ歌なのに、これほど解釈が変わるとは。
もうひとつだけ。
終盤の舞踏会と、皇帝(替え玉だけど)からのキスのチャリティーの裏で、会議中のメッテルニヒらが舞踏会の音楽に合わせて椅子をゆりかごみたい揺らして遊んでいる。
この時の音楽も『唯一度だけ』。
そしてやがて全員が舞踏会に行ってしまい、会議室には誰もいなくなり、最後は椅子だけがゆらゆらと踊っているという、かなりシュールなこのシーンもまた、哀愁がある。
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