題名 ペテン師とサギ師/だまされてリビエラ (Dirty Rotten Scoundrels)
監督 フランク・オズ
出演 スティーヴ・マーティン、マイケル・ケイン、グレン・ヘドリー
上映時間 110分
制作年 1988年
制作国 アメリカ
あまり話題になることがない映画だと思うけれど、かなりの傑作だと思う。DVDになってはいるけど増版がないのは全く解せない。
これは勝手な想像だけど、マイケル・ケインもスティーヴ・マーティンも代表作がたくさんありすぎて、この作品が割を喰ってしまっているのではないかしら。
某国の王子のふりをして、金持ちの熟女相手に大金を巻き上げる貴族的熟年ノーブルな超大物詐欺師ローレンスと、
可哀そうな境遇をでっち上げ、行き当たりばったりの詐欺を繰り返す、小遣い稼ぎ程度のチンケな若造詐欺師のフレディ。
偶然列車で出会った二人だったが、フレディは図々しくもローレンスの縄張りに入り込み、勝手気ままに動き始める。自分が長年育ててきた縄張りが荒らされるのを看過できないローレンスは、縄張りを賭けた勝負をフレディに申し込む。
二人はたまたまアメリカからやってきた太客の女性、“ハミガキの女王”と呼ばれるジャネットをターゲットに、どちらが先に5万ドルを巻き上げるかを競い合う。
いつもは「ネタバレかどうか」をあまり気にせず感想を書いているけれど、さすがにこの映画ばかりはオチをいう訳にはいかない。だからあまり書くことがないのだが、これがすごく良くできた脚本で、オチも完璧だと思う。
まず、二人は共通のターゲットを騙すだけでなく、お互いも騙しあっているからその分駆け引きが複雑になって手が込んでくる。お互いプロだから相手の作戦をすぐに見抜いて、その作戦に乗っかる形で相手の邪魔をしたりして、その丁々発止が面白い。
映画とはいえその機転の速さをうらやましく思ったりして。私、鈍いから、冗談とか言われてもピンとこないことが多くて、そんな時はいつも少し恥ずかしい。気の利いた会話とかできる女に憧れたりもする。
でも心の奥底では憧れていなかったりもする。すごいなあ、頭いいなあ、と思うけど、なりたいかと問われれば、別になりたいとは思わない。もしなってしまうと、男たちの評判をとってモテてしまう気がする。それは面倒くさい。できれば避けたい。そんな矛盾した心境。
話は戻って、私はローレンスがお気に入り。彼はどこかの国の王子を騙って、お金持ちの熟女から大金をせしめているのだけれど、これが一過性のものではなく、延々とだまし続けることに成功している様子。それはもう王子として生活していると言っていいレベル。
それも革命が起こって失脚した悲劇の王子で、同志と共に正義のために闘い続けているというヒロイックな設定なので、ある種のおば様たちのヒロイズムを刺激して、やたらと熱狂的な支持者を獲得しているの。昔(90年代だったかな)話題になったクヒオ大佐みたいな設定。
それに引き換えフレディの方はと言えば、手術に莫大なお金がかかる難病の祖母のためにお金が必要だとか、歩けなくなって車椅子に乗る可哀そうな退役軍人などを装って、女性の同情を引いて金をせしめるスタイル。
それも戦場で名誉の負傷とかではなく、戦地から戻って恋人とペアでダンスの大会に出て、「優勝したら結婚しよう」と約束していたのに彼女の浮気を目撃して精神的ショックで歩けなくなったんです号泣、とかいう、割とみじめったらしい設定のオンパレード。
この映画が好きかどうかは、このフレディの設定が受け入れられるかどうかにかかっているように思う。この“21世紀コンプラ狂時代”に受け入れられるかしら。
というのも、車いすに乗った退役軍人という設定なので、どうしても障害者ネタが続いてしまう。最近の風潮からすると、「許せない」「不快」「昭和は野蛮で未開」とか思う方が多いかも。
私も久しぶりに見るにあたってちょっと不安ではあった。今見ても楽しめるかしら、と。
そもそも私は下ネタとか障害者イジリとか、そういう笑いが大嫌い。日本のお笑いでも、そういう品のない番組は子供のころから嫌い。「ドリフ」も「ひょうきん族」も「バカ殿」も私には不快。
でもこの映画は今回見直しても不愉快じゃなかった。
なぜだか少しだけ考えてみたのだけど、車椅子ネタについては「足が不自由を装っているだけ」なので別に馬鹿にしてはいないと思うし、
たぶん一番問題のユプレヒト(だったかな?)のところは数分しかないし、車椅子と同じで「こういう家族を持っているというシチュエーション」なんであって、別に馬鹿にしている訳じゃないと思う。
、、、と言っても21世紀の人には言い訳に聞こえるかもしんない。
ところで、ヒロイン?役のグレン・ヘドリーがとても良かった。すごく善良な女の子の役。心の底からフレディを心配していて、「助けてあげたい!」っていう気持ちが伝わってくる。こういう善良いい子ちゃんキャラって鼻について嫌いなことが多いけど、このジャネットについては全くそういういやらしさを感じなかった。
その理由はたぶん、ジャネットを演じたグレン・ヘドリーが、絶妙に “特別可愛いわけじゃないから” だと思う。もし本当にアイドルみたいな可愛い女の子がこの役をやっていたら、「け」って思うと思うけど、グレン・ヘドリーはそういう手合いとは違って、ちゃんと女優だった。
でも私は他の作品で彼女にお会いしたことがないと思う。今回彼女の履歴を確認してみたけど、やっぱり他は見ていない。映画鑑賞にも “縁” ってあるから、題名などから察するに、自然にまかせていたらたぶん私は一生見ない気がする。
ついでにもう一つ。
この映画は字幕版もさることながら、TV版の吹替が面白い。映画始まって最初のセリフ、マイケル・ケイン(ローレンス)の
「いいカモ」
でのっけから笑った。「いいカモ」だって笑 思わず噴きだしたね(ちなみにDVDだと「完璧」)。