映画『舞踏会の手帖(1937)』のデータ
題名 舞踏会の手帖(Un carnet de bal)
監督 ジュリアン・デヴィヴィエ
脚本 アンリ・ジャンソン
出演 マリー・ベル、フランソワーズ・ロゼー、ルイ・ジューヴェ、アリ・ボール、ピエール・ブランシャール
上映時間 130分
制作年 1937年
制作国 フランス
映画『舞踏会の手帖(1937)』のあらすじ
主人公は中年期に差し掛かろうという元美少女クリスチーヌ。裕福な男と結婚し、何不自由なく生活してきたクリスチーヌだが、その夫に先立たれて一人孤独に暮らすことになる。そこでクリスチーヌは16歳だった自分が初めて社交界にデビューしたときのことを思い出す。
あの時、私は何人もの男性に思いを寄せられていた。あの方達は今頃どうしているのかしら。
クリスチーヌはかつて自分を口説いてくれた男性たちのリストを片手に、上から順に訪ね歩く。
映画『舞踏会の手帖(1937)』の予告編
映画『舞踏会の手帖(1937)』の感想
不幸だと過去を反芻するらしい。中年期に差し掛かった元美少女が、旦那が死んだことをきっかけに、昔モテたことを確認するかのように思い出の男性陣を次々と訪ね歩く、という話。
彼女の結婚生活は幸せではなかった。で、過去を懐かしむ。あの時、私に愛を囁いてくれた男たち。栄光の日々というところ。過去に栄光がある人が、昔たくさん獲得したトロフィーを撫でまわす、そんな感じ。
全体的にしみったれているというか、未練がましい感じがして、クリスチーヌがこの旅でなにをしたいのかが分からず、今ひとつ感情移入できなかった。
でも大傑作だと思う。
オムニバス形式の映画なのだけど、映画は2時間程度しかないのに8話もあって、その一話一話が “濃厚”。まるで全8話の連続ドラマを見ているよう。
ジョルジュのかあちゃんが怖い、心理ホラー的な怖さを感じられる第一話。
フィルム・ノワール的な演出の犯罪映画だった第二話。
第四話では一転雪山ロケを敢行。
第五話では急にコミカルな喜劇調になり、
第六話では、傾いたカットやあおりのカットで不穏で緊迫した空気を醸し出すなど、趣向を凝らしていて飽きさせない。
ダレるあたりで持ってきた第五話「フランソワ」がすごく面白い。
クリスチーヌが訪ねていくと、フランソワはまさに今結婚しようとしている。それで嫁になるのが自分の女中なのだけど、今日は結婚式だというのに大ゲンカ。でもその喧嘩も愛情に満ちていて見ていて楽しい。大喧嘩なのに微笑ましいの。
フランソワは無能の神父をクビにして、自分で自分の結婚式を執り行っちゃったりしてもうバタバタ。
嫁が美人じゃないところもいい。お似合いの、仲の良い二人なのだ。
いいなあ、こういうカップル。息子がバカでクズでフランソワも決して幸せではないのだけれど、でもきっとこの二人なら仲良く支え合って乗り越えて行けそう。
美人でモテモテのクリスチーヌのことなど、私には理解できようはずもないのだが、少しは分かる部分もある。
田舎の湖畔のお屋敷に、たった一人で取り残された不安や絶望というのは、そりゃあもう孤独だろうと思う。怖いレベル。しかもまだ36歳。これからの人生を、なんの目的も希望もなく生きるには先が長すぎる。そこで自分探しの旅に出る。
昔自分を口説いてくれた男たちを訪ね歩く。クリスチーヌはエリックに会った時、「自分は過去の男を訪ねているのではなく、過去の自分を訪ねているのだ」と語っている。そして「それは未来の自分を見つけることが目的」とも言っている。
美少女だったことはない私にも、その心理は理解できた。
ただしラストはちょっと疑問符あり。クリスチーヌの最後の決断はこれでよいのか。
クリスチーヌが最も心を奪われていたと思われるジェラール(金髪の王子様系)。そのジェラールに生き写しの息子を引き取って育てることにするというね・・・初恋の人の忘れ形見を育てるなんて・・・変態なのではなかろうか。
ちょっと気持ち悪いと思う私だけど、映画的にはハッピーエンドとしての演出になっているみたい。
そうか。このラストを見て多くの女性陣は「すてき!良かった~」って思うのか。
分からん。私は過去の全てを捨て去って、先に進んでほしいと思うのだが。