映画『舞台恐怖症(1950)』のデータ
題名 舞台恐怖症(Stage Fright)
監督・制作 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジェーン・ワイマン、リチャード・トッド、マレーネ・ディートリッヒ、マイケル・ワイルディング
上映時間 110分
制作年 1950年
制作国 イギリス
映画『舞台恐怖症(1950)』のあらすじ
女優の卵イヴは、自分が恋する俳優ジョナサンからある秘密を打ち明けられる。
ジョナサンの愛人のスター女優シャーロットが夫を殺し、ジョナサンが犯人として疑われているというのだ。シャーロットに首ったけのジョナサンは、彼女に命じられるままに、血がついたドレスの着替えを彼女の家に取りに行き、そこを家政婦に見られてしまったらしい。
イヴは大好きなジョナサンの無実の罪を晴らすため、シャーロットの家政婦としてそばに近づき、証拠探しに奮闘する。そして刑事スミスや父親の協力も得て、イヴは次第にシャーロットを追い詰めていく。
映画『舞台恐怖症(1950)』の予告編
映画『舞台恐怖症(1950)』の感想
マレーネ・ディートリッヒの悪女ぶりと、リチャード・トッドの恋に溺れる間抜けぶりが後半きっちり効いてくる、ヒッチコックらしいサスペンス・スリラーだった。
やはり見どころはシャーロット役のマレーネ・ディートリッヒ。実に渋い女。
美人とか可愛いとかいう一般的な誉め言葉が当てはまらず、そんな言葉が陳腐にすら思えてくる類を見ない独特の魅力。酸いも甘いも噛み分けたというか、清濁併せ呑むというか、やたらと大人の雰囲気を漂わせて、それでいてコケティッシュですらあるんだから、唯一無二感がハンパない。
彼女こそが「The One」と言えるのでは。
そしてリチャード・トッドは、格の違い過ぎる女に惚れたピュアな男、恋に溺れる間抜けな男、っていう感じで登場。
『喰いついたら放すな(1960)』でもとても間抜けな男役だったので、「おや。また間抜けな役柄だな。彼の持ち味なのか?」と思いきや、その先入観を覆される展開でとても面白かった。
私、リチャード・トッド、好きかも。
この二人の間を行ったり来たりするイヴと、途中で知り合う刑事スミスの恋が、なんだか高校生同士のカップルみたいに初々しいのも良かった。
ヒッチコックって大人のドロドロした恋愛劇みたいにしない(できない?)でしょう。いつもきれいにまとめてる。「若者の恋愛は清潔感のあるファンタジーにしたい!」っていう感じで、ヒッチコックの童貞感があふれていて「らしい」と思う。
それに殺人のシーンも写さないし、血がドバーッとかにもしないし、「ギャー!」とか「キャー」とか女が大騒ぎしないし、殺人と犯人探しが主題なのにショッキングにあおることなく、品よくまとめておきながら、でもしっかりショッキングという、この絶妙にスリリングな脚本作りはヒッチコックならでは。あんたは凄い。
ジョナサンのことが好きなイヴは、途中で刑事スミスに心変わりをするけれど、その「あ、心が変わったんだな」と観客に気づかせる演出もよかった。
それに、イヴがなにやら企んでいることを利用して金を巻き上げようとする浅ましい家政婦や、イヴを徹底的に信じてアシストする心優しく賢い父親などが彩を加えて脇役までしっかり。
とても気持ちよく見られるサスペンスだった。