題名 殺人幻想曲(Unfaithfully Yours)
監督・脚本 プレストン・スタージェス
出演 レックス・ハリソン、リンダ・ダーネル
上映時間 105分
制作年 1948年
制作会社 20世紀フォックス
制作国 アメリカ
ダドリー・ムーアが無双している傑作コメディ『殺したいほど愛されて(1984)』のオリジナル作品。このオリジナルは公開当時そこそこコケたらしい。
主人公のアルフレッドは世界的に有名な指揮者。若くて美しい妻ダフネをもらってラブラブ絶好調。
ところが自分が出張しているあいだに、ダフネが自分の秘書であるトニーと浮気しているのではないかと疑い、妻ダフネの殺害計画を練る。それも完全犯罪をもくろむのだが、あまりにも自分に都合よく考えすぎていて全然うまくいかず、グダグダになっていくのに無理やり貫徹しようとする、という話。
やっぱり面白いのが、指揮者であるアルフレッドがオーケストラの演奏中に指揮棒を振りつつ妻殺害の計画を妄想するくだり。
恐るべきご都合主義の塊とも言うべき計画というのは、オリジナルだと3パターンあって、
①一曲目の ロッシーニ『セミラーミデ』を指揮しながら考える計画は、妻のダフネを自分で殺害し、その罪をトニーになすりつける完全犯罪バージョン。
雑な計画なのにやたら緻密になっちゃって、ほんの少しタイミングが狂うだけで計画のすべてが崩壊するレベル。その緻密さは、犯人にしたてる相手トニーの協力が必要なほど。でも妄想内では大成功するから嬉しくなっちゃってウヒャウヒャ笑いながら指揮をして、なぜか演奏も大成功。
②二曲目、ワーグナーの『タンホイザー』では、妻の浮気を知っても落ち着き払って二人の関係を許したうえに、10万ドルの小切手まで二人に渡すという、寛大な大人、余裕の男バージョン。
アルフレッドは「俺って大人。シビレるー」的に妄想しながら、やたらめったら指揮棒を振っていたら、「感無量」みたいなえらくドラマチックな演奏になっちゃってこちらも大喝采。客席のダフネも感激して惚れ直してた。
③ラストの三曲目、チャイコフスキーの『フランチェスカ・ダ・リミニ』では、彼女をめぐって恋敵トニーとロシアン・ルーレットで対決するという決闘バージョン。
これは失敗して自分が死んでしまうが、「戦いに敗れたオレ」ってなって、「ああなんてドラマチック」って、自分に酔って指揮棒を振っていたら、やっぱり大喝采の大成功。
というわけで毎回どういう訳か、今振っている楽曲に見事にはまってなぜか名演奏になってしまう。
そのあと早速家に帰ってウキウキと妻殺しの準備を始めるけど、何一つうまくいかない。それなのに何が何でも計画を貫徹しようと強引に突進するアルフレッドの姿が、これまたどーしようもない。いい奥さんなのに。
このアルフレッドが物凄く軽い。
アルフレッドがどのように軽い男かと言うと、自宅のクローゼットとかバスルームの扉を「本棚模様の壁紙」にしているという、そういう軽さ。
たくさんの本に囲まれて・・じゃなく、本棚模様の壁紙を貼るだなんて、本好きとしては許せないな。世の中にこれほど軽薄なことがありますか。これなら読みもしない本を並べてる方がずっとマシ。
これを演じてるのがレックス・ハリソンだからますます軽い。この頃は痩せてるからなお軽い。そして演技も指揮ぶりも棒だった。
あと、スタージェス監督の演出でどーしても気になったのが、所々で妙な効果音を入れているところ。
財布のファスナーを開けるとき、サンドウィッチをつつくとき、殺人の計画を実行に移す時、いたるところで「ジーーッ」とか「ギュン」「ギャーギャー」「ピューン」とか、音をつけてるんだよね。
こういうのいらんから。
というわけで、プロットは面白いんだけど、所々ビミョーな演出でしんどかった。これはリメイク版の勝ち。
そんな本作で私が一番関心を持ったのは、使用される録音機材。ポータブルのレコード・プレーヤーで、なんとレコード盤に音声を直接録音出来る。
もうひとつのプレイヤーの方は、再生する時5枚くらいのレコードを連続再生出来る。
どちらも家庭用で、戦後すぐで、すごいハイテクなのだ。これには驚いたね。