題名 陽気な街(ON THE AVENUE)
監督 ロイ・デル・ルース
制作 ダリル・F・ザナック
出演 ディック・パウエル、マデリーン・キャロル、アリス・フェイ、リッツ・ブラザース、ステピン・フェチット
上映時間 89分
制作年 1937年
制作国 アメリカ
地味だけど、素晴らしかった。
主役のディック・パウエルは、歌はうまいが見た目はわりと普通。物語も普通、演出も普通、出てくるスターも男女ともに普通、全部普通。コメディとしても大爆笑!というよりは、見ていてじわじわ楽しくなってくる、という感じ。モノクロだから余計に地味に見える。
でも美しかった。
主人公は役者で脚本家のゲイリー・ブレイク。大富豪キャラウェイ一族をコケにするようなコメディをブロードウェイで上演して大評判。ところが見に来ていたキャラウェイ父娘が「馬鹿にしている!」と大激怒。上演をやめさせようと舞台裏で大騒ぎ。
だけど娘のミミとゲイリーはすぐに恋に落ち、すると今度はゲイリーを好きな女優のモナが言うことをきかなくなるし、次いでミミはミミで財にまかせて舞台をぶち壊すしで、今度はゲイリーが大激怒。二人の仲はどんどんこじれてしまう。はたして二人の関係やいかに。
大富豪のキャロウェイや娘のミミは、ヒルトン一族みたいなイメージ。
まずこの一族を風刺する、劇中劇となるミュージカル 『オン・ジ・アヴェニュー』 自体が面白い。
葉巻とヨット好きで知られるキャロウェイは、巨大な葉巻を咥えて小さなおもちゃの帆船をコロコロ引きながら登場するとか、犬好きのミミは20匹くらいの犬と共に大階段を登場するとか、
食事のシーンでは、二人が長ーいテーブルの端と端に座って、会話するのに電話を使うとか。おまけにその電話もイチイチ召使がいったん出て取り次ぐというバカバカしさ。
こういう他愛もないパロディ、アメリカ人好きそう。私も好きだった。
このミミがお高く留まらず、チャーミングなお嬢さんで魅力的。特にゲイリーと腕を競い合うお祭りでの射的シーンは、ちょっと勝ち気でノリが良くて、背面打ちまで披露して、ここでミミを好きになれる。
それからミミの叔母で、金持ち一族に大抵ひとりはいる、ユーモアがあって話の分かるフリッツおばさんも気に入った。自分たちがバカにされている舞台を見ても大笑い。「あれあなたよ!」 爆笑、「あれ私よ!」 大爆笑、といった具合。
とはいえ、そういったコメディ部分もさることながら、私が最も気に入ったのは、舞台でゲイリーが 「ガゼット誌の表紙の女の子に恋をする歌」 を歌うシーン。この時代はカメラが大きくて動き回われないから、定点カメラでじっくりゆっくり撮影していて品がいい。
歌に合わせて舞台がまわって、場面がすべるようにくるくる変わって、なんて素晴らしくロマンチックなんだろう。曲も良くて録音が欲しいと思った。
まだ世界が今ほど下品になっていない時代の、古き良きアメリカの、いいとこばっかり詰め込んだ、そんな感じの映画だった。