映画『80日間世界一周(1956)』のデータ
題名 80日間世界一周(Around the World in 80 Days)
監督 マイケル・アンダーソン
原作 ジュール・ヴェルヌ「八十日間世界一周」1872年
出演 デヴィッド・ニーヴン、カンティンフラス、ロバート・ニュートン、シャーリー・マクレーン
音楽 ヴィクター・ヤング
タイトル・デザイン ソール・バス
上映時間 169分
制作年 1956年
制作国 アメリカ
アカデミー賞 5冠 (作品賞、脚本賞、撮影賞、音楽賞、映画編集賞)
映画『80日間世界一周(1956)』のあらすじ
1872年のロンドン。裕福な主人公フィリアス・フォッグは紳士クラブで友人らとホイストの最中、「交通機関の発達で、3か月あれば世界一周できる時代になった」との友人の言葉に、「自分なら80日間でできる」と言い出し、できるできないの議論を経て、2万ポンドの賭けに応じる。
早速、執事のパスパルトゥを従え、世界一周の旅に出るフォッグ。しかしその後ろから、フォッグが銀行強盗ではないかと疑う刑事フィックスが執拗に追いかけてくる。
果たしてフォッグは約束を果たすこと出来るのか。
映画『80日間世界一周(1956)』の予告編
映画『80日間世界一周(1956)』の感想
「風呂の水は40センチでなければいけません。ピッタリにです。
朝食のトーストの温度は28度です。ピッタリに。」
~フォッグの元執事の退職の理由~
80日間で世界を一周できるかどうかを友人と賭けた主人公フォッグが、執事のパスパルトゥの二人だけで世界一周の旅に出る、というストーリー。
大好きなジュール・ヴェルヌの原作「八十日間世界一周」の雰囲気をそのままに、主人公のフォッグとパスパルトゥの魅力を強化した大傑作。映画の方は原作にはない気球も使っている。
ジュール・ヴェルヌの原作を映画化したジョルジュ・メリエスの『月世界旅行(1902)』の映像で始まるから、図らずも ”世界初のSF映画” も見られてしまうし、
主役のフォッグ役は私が大好きなデヴィッド・ニーヴンだし、命を救われる姫様役のシャーリー・マクレーンも可愛いし、公開当時「スターを探せ!」と言われただけあって、スターが大挙してカメオ出演しているから、それを見つけるのも楽しい。
それに私の好きな『さらばベルリンの灯(1966)』『2300年未来への旅(1976)』を監督したマイケル・アンダーソン監督作品でもある。
おまけにエンディングのタイトル・デザインが、天才ソール・バス。ヴィクター・ヤングの主題曲も有名。
世界中を回るから世界の名所がたくさん出てくるし、セットも美術も美しくてゴージャス、気球からゾウまで乗り継ぎ、インドでは姫を救ったりして冒険あり、ロマンスあり、
見どころや語りどころが盛りだくさんの最高に楽しい作品。
「観光映画」とも言える本作に於いて、特筆すべきはその道先案内人となる主人公フィリアス・フォッグとその執事パスパルトゥのキャラクター。
この映画はこの二人の魅力を楽しむ映画だと思う。
まず主役のフォッグ。
彼は40代の独身主義の男で、寡黙で人嫌い、親戚もなければ妻も友人もなく、莫大な財産を持っているようだが仕事をしている様子はなく、その富がどこから来たものなのか誰も知らず、時計のように正確に行動し、極めて冷静沈着で鉄の意志を持った謎のような男。
とにかく自分が決めたルーチン通りに物事を行っていくため、あまりの厳格さに半年で5人もの執事がやめていくほど。冒頭に引用したセリフを言った元執事には「あの方はオニです」とまで言われていた。
実際に映画の冒頭から、クラブに入る直前に足を止めて懐中時計を取り出し、街の時計台に目をやって、時報が鳴るのと同時にクラブに入っていっていたが、その姿はまるで自分の懐中時計の時間に絶大な自信を持っていて、時計台の方がちゃんと合っているかを確認しているよう。
そして受け取った新聞を、自分より前に誰かが読んだと目ざとく見つけ、「私に古新聞を読めというのかね」と言って新品と取り返させたり、クラブの仲間からは「家柄も仕事も不明、狩りも釣りも女遊びもしない」と言われるような堅物で、唯一の趣味はカードゲームだけ。
彼も確かに「外国でも自分の習慣を変えない」と言われる英国人だけれど、フォッグのそれは遥かに上を行っている。
船の中で船長が「暑いので昼は特別メニューのカレーにしましょう」と言って、乗客たちも「いいねいいね」と言っているのに、「予定通りで頼む。私の木曜の昼食は常にホット・スープと舌平目にロースト・ビーフ、ポテトに糖蜜だ」と言ってのけ、周りを唖然とさせる。どうやら曜日ごとに食事が決められているらしい。
それだけではない。お茶の時間も決まっているようで、嵐の中、誰もいない甲板で、飛ばないようにシルクハットをスカーフであごに巻き付けてお茶をしていた。
お茶の時間と決めたのだから、嵐が来ようが槍が降ろうが、なにがなんでもティー・タイム。徹底している。
常に冷静で感情が表に出ないタイプだけど、インドのお姫様がピンチとなれば即決で救いに行くし、パスパルトゥがインディアンにさらわれたとあれば先頭を切って駆けつけ、侮辱されれば決闘にも応じるし、ばっさばっさと札束を切って迷いとは無縁。
決断力と行動力があり、常に先を見通す洞察力がある。凡人とはスケールが段違いに違う。
これが実に格好いいのだ。
そんなフォッグに付き従うのが執事のパスパルトゥ。
彼は冒頭に引用したセリフを言って辞める執事の話を聞いたうえで立候補し、こんな変人フォッグに雇われている強者(つわもの)。
こちらも数々の職歴を誇る、スーパーマンみたいに使える男。「昨日」雇われたばかりなのに極めて主人思いで、ご主人様のためなら何でもする忠実さを持っている。
発明されたばかりの自転車に乗って颯爽と登場し、気球のバルブが調子悪いとなれば上空であっても気球の上にのぼって直そうとするし、フラメンコは踊るわ、闘牛士デビューするわ、ダチョウにも器用に乗るわ、異国日本の横浜では曲芸師のアルバイトもするわ、言葉も達者でスペイン語もペラペラ。
女に目がないのが弱点で、目の前を女性が通るだけでふらーっと付いて行っちゃうところが玉に瑕。
だけど常に旦那様のために行動しようとしていて、すごくチャーミング。わたしパスパルトゥー大好き。
この二人ならどんな難関も突破できそうな、無敵のスーパーマン・コンビなのだった。
数々のスターが出てくる「カメオ出演」に関しては、私はたいしてわからなかった。
まず最初の方のパリで、『舞踏会の手帖(1937)』でファビアン役をやっていたフランスの俳優フェルナンデルがでてた。
あと舞台がアメリカに移ってから、酒場の女にマレーネ・ディートリッヒ。「いるー」って感じで出てて、これは見過ごしようがない。
同じく酒場でレッド・スケルトン。
同じく酒場でフランク・シナトラ。こっちも「映るよ映るよ、あーやっと映った」みたいに、じらしてからのアップ!みたいな登場の仕方。
そして大陸横断鉄道の車掌にバスター・キートン。
それくらい。他は「顔は見たことあるけど誰だっけなー、なにで見たんだっけ」って感じで、やっぱり相当有名じゃないと分からなかった。
でも大丈夫。この映画はエンディングが答え合わせみたいになっていて、イラストで映画の場面をおさらいしながら、どこに誰がどんな役で出ていたかが分かるようになってる。
このエンディング・アニメーションを担当したのが、かの有名な天才デザイナー、ソール・バス。これを見るだけでもこの映画を見る価値がある。
私はソール・バスがタイトル・デザインをした映画を全部見るのが夢。
👇 もちろんヴィクター・ヤングの主題歌もすばらしい。