映画『ベン・ハー』のデータ
題名 ベン・ハー (Ben-Hur)
監督 フレッド・ニブロ
出演 ラモン・ノヴァロ、フランシス・X・ブッシュマン、メイ・マカヴォイ、ベティー・ブロンソン
原作 ルー・ウォーレス 「ベン・ハー」(1880)
制作・配給 MGM
上映時間 141分
制作年 1925年
制作国 アメリカ
映画『ベン・ハー』のあらすじ
ユダヤ貴族の息子ベン・ハーは、ローマ軍の将校となった幼馴染の親友メッサラと再会するが、メッサラは支配者気取りでベン・ハーのことを人間扱いせず、すっかり傲慢になっていた。
誤って瓦を落とし提督の頭にぶつけてしまったベン・ハーはメッサラに捉えられ奴隷にされてしまい、母と妹まで捉えられ牢獄につながれてしまう。ガレー船の漕ぎ手としてこき使われるベン・ハーはメッサラへの復讐を決意する。
数年後、ベン・ハーはローマの将軍の命を助けた縁で彼の養子となり、奴隷の身分から抜け出すことに成功、その上戦車競争のホープになってローマ市民の英雄となっていた。今度の戦車競争にメッサラが出場することを知ったベン・ハーは自分も「無名のユダヤ人」としてレースに出場することを決意。全財産をかけてメッサラを破産させようと目論む。レースはメッサラの再三の卑怯な手にも屈せずベン・ハーが優勝する(メッサラは落馬)。
実家に帰ったベン・ハー。母と妹はとっくの昔に死んだと知らされていたが、ライ病を患っていたもののまだ牢のなかで生きていた。十字架にかけられゴルゴタの丘に向かうイエスの奇跡によって母と妹の病は癒え、親子は再会を果たすことができて物語は終わる。
映画『ベン・ハー』の感想
素晴らしかった。ううーん、やっぱり映画にセリフっていらないのかもしれないなあ。日本は大正14年。その時期にこういう映画を作るアメリカの繫栄は並大抵ではない。
かの有名なチャールトン・ヘストン版 『ベン・ハー(1959)』 のオリジナル作品。モノクロ、サイレント映画で、こちらもしっかり141分ある。
オリジナルと言っても、もっと古い1907年制作15分版というのもあるらしいので、正確にはこれもリメイク。
1920年代で200万ドルとも390万ドルとも言われる巨額の制作費を投じただけあってすごくスペクタクルだし、
セリフなんかなくても分からないところは全然ないし、
信じられないことに、あの戦車競争のシーンも1959年版と比べて別段見劣りすることもないし、
エキストラも12万人動員したらしいし、
こういう映画を見ると「映画って本当にすばらしいものですね水野晴朗」という気持ちになる。
ここまで凄いと1959年版いらないじゃん、この1925年版でいいじゃん、とさえ思えてくる(言うまでもなく1959年版も凄いけど)。
今作を見ると1959年版が今作を完全に下書きにしていることがよく分かる。多少時系列が前後してシンプルになっているとはいえ、ストーリーはほぼ同じ。構成とかカット割りとか演出とか、もう完全リメイクというか、おんなじ。
1959年版で私がとても感心した、「イエス様が姿を現さない手法」も、今作でも「手だけ」だったりして、すでに徹底されている。
1959年版の監督であるウィリアム・ワイラーは、この1925年版にも助監督として参加している。だからワイラーが1959年版を監督する際、観客の期待を裏切ることのないように、評判の高い1925年版をしっかり踏襲して、そのうえで最新技術を駆使して商業的にもパワーアップを狙ったのだとしたら、それはもう大成功している。
でもこの1925年版を見れば、これだけでもいいんじゃないかなと思うのも事実。こっちだけでもきっと満足できる。それくらい素晴らしい作品になっていた。
映像的には基本はモノクロ映画だけれど、途中でセピア色になったり、イエス登場シーンなどは二色法カラーになったりする。モノクロ映画ではママある手法。
白黒写真やモノクロ映像は、それはそれでとても美しいものだけど、途中で二色法とはいえカラーになると、はっとする。「色彩があるということは豊かなことなんだなあ」と、改めて思う。衣装なんかも「ああ、ちゃんと色があるんだな」と当たり前のことを改めて思う。
映画『ベン・ハー』主役のラモン・ノヴァロについて
ラモン・ノヴァロはこのベン・ハー役で大スターになったお方で、たぶん今でいうところのセックス・シンボル的な存在になったのだと思う。若い肉体とアクション、若い女性がキャーキャー。ラテン系だし(メキシコ系)。
彼の作品は、私は他にグレタ・ガルボと共演した『マタ・ハリ(1931)』だけ見ている。この時のノヴァロの印象はあんまりよくなくて、ガルボがすらっと完璧なスタイルを誇っているものだから、ノヴァロがなんだかチンケに見えて仕方なかった。しょぼ。みたいな。
ガルボは公証170cmとも言われていて、ノヴァロと同じくらいと思われる。なんならノヴァロの方が小さいと思う。それにガルボは絶世の美女でカリスマ性もハンパない。ちょっとさすがに格が違うという印象だった。
しかし!
いきなり武張ってしまったが、こちらの『ベン・ハー』では見違えた! これでスターになったというのは頷ける。チャールトン・ヘストンに優るとも劣らない、説得力のある存在感を見せていた!
彼はこのベン・ハー役で当たりを取ったあと、数年間のスター時期を経て、人気に陰りがでてくる。30年代の後半には、映画でというよりも人気がピークの時に投資していた不動産の利益で生活していたらしい。私生活では同性愛者だったらしく(多いね)、そのことで悩んでアル中になっていき、男娼を買ったことからトラブルに巻き込まれて殴り殺された。犯人はノヴァロが大金を持っていると思っていたらしいが、ノヴァロはその時20ドルしか持っていなかった。
スターの末路は悲しい。