題名 百万弗の人魚(Million Dollar Mermaid)
監督 マーヴィン・ルロイ
出演 エスター・ウィリアムズ、ヴィクター・マチュア、ウォルター・ビジョン
上映時間 115分
制作年 1952年
制作会社 MGM
制作国 アメリカ
「いよっ!エスター!千両役者!」とか、そういう映画かな、くらいの軽い気持ちで見たら思いがけず良作だった。
エスター・ウィリアムズものとして『世紀の女王(1944)』『水着の女王(1949)』に続いての鑑賞だったし、題名からして前2作同様お気楽MGMミュージカル風だから、「エスターがすごく泳いでくれるといいな」くらいにしか思ってなかった。
でも前2作とはそもそもコンセプトから違っていて、1910年代ごろに実在したアネット・ケラーマンという女優の伝記映画だった。エスターにぴったりの題材。
なんか・・・すいませんでした・・・。不真面目に見始めちゃって。途中で思わず膝を正しました。
主人公は、19世紀のオーストラリア生まれのアネット・ケラーマン。子供の頃は足が悪くて下肢装具を使っていたが、なんと泳ぎが得意なことが発覚し、父親の愛情あふれる理解と惜しみない協力を得て水を得た魚のように泳げるようになる。
その後ロンドンへ渡り、興行師サリバンとタッグを組んでテムズ川を完泳して時の人になり、二人は「チャンス到来」とNYへ渡って、当時最大の劇場だったヒポドローム・シアターに売り込むが失敗。
そこで前回同様、遠泳での話題集めを試みるが、アネットが着ていた水着の露出が大きかったことが騒ぎとなって逮捕され、裁判ざたとなる。
しかしアネットは双方の意見の妥協点を見出して、より露出が小さく、しかも水の抵抗も少ないタイトな水着を提案して勝訴。
以降はサリバンと共にカーニバルの出し物として水泳ショーをおこない、人気を博す。
その結果、一度は断られたヒポドロームから出演オファーが届き、水中ショーを披露。アネットは一躍大スターに躍り出て、映画デビューも果たし、サリバンと結ばれる、という話。
エスターは泳いでいた。それもかなり。
もうサーカス並みのアクロバティック・シンクロナイズド・スイミングというか、すべり台を立ったまま滑り込んでくるわ、空中ブランコから飛び込むわ、吊り輪に捕まって天井に吊り下げられてそのまま落ちたりするわ、やっぱりここは「いよっ!エスター!千両役者!」という感じ。
アート的な演出も盛りだくさんで、水中バレエとか、ヴィーナスの誕生的に貝殻におさまるわ、バースデーケーキに差してあるみたいなバチバチ火花と一緒に水中に消えていくわ、もう見どころだらけ。きれい。
しかも「笑顔で水中から現れ、笑顔で水中に消えていき、笑顔で水中で泳ぐ」という、笑顔&カメラ目線のオンパレード。
エスター、あんたすげえよ。たいしたもんだ。ますますファンになった。
これで決してバカっぽくないから感心する。彼女はバレエの素養とかもあって、動きがとても美しい。訓練された美しさ。そこが知的に見える秘訣かな。
でも映画は思いっきり『世紀の女王』の時の映像が挿入されていた。全然関係ないのに不思議。
そして舞台となる劇場「ヒポドローム・シアター」がこれまた凄い。劇場がスペクタクル。
実際に1905年から1939年までNYにあって、5300席もある巨大な劇場だったらしい。今作で大活躍の「水槽」は、高さ4.3 m、直径18 m、3万リットルが入る透明なガラス製の水槽だったというから驚き。劇場は最終的に経営に失敗して閉鎖されたらしくて残念だけど、大恐慌もあったから無理もない。
ところで本物のアネット・ケラーマンも、ちゃんと美人。エスター・ウィリアムズだから相当美化してるかと思いきや、ちゃんと美人。知的な感じで私は好きな顔。
英語版Wiki Annette Kellerman - Wikipedia
アネットが出た映画『神の娘(1916)』は180分の長編映画で、20世紀初頭にも関わらず100万ドルという巨費を投じて巨大セットを作って撮影したらしい。そのスケールは、日本公開時のポスターによると、「出演俳優 21,218人」、「矮人国の童人 12,000人」、「人魚の数 200余」、「鰐魚 80余頭」とのことで、「本映畫の出現は正にキネマ史上に於ける一大奇蹟たり」と謳われている、とのこと。
見たい。一大スペクタルじゃないですか。しかもサイレントで180分。フィルムが残っていないらしいのが惜しまれる。でも『海底のヴィーナス(1924)』の方はフィルムがあるとも書いてあるから、見られるものなら見てみたいものだ。